カテゴリ:文芸部

文芸少女折下ふみかの華麗なる冒険 その36

 

「ふみか」ファンのみなさん、こんにちは。はやいものでもう師走です。さむくなりましたねー。でもわたしはどちらかというと冬が好きです。やっぱコタツとミカンですよね。さて、今となってはだいぶ前のことになっちゃいますけど、10月の中旬、3泊4日の修学旅行に行って来ました! わーわー!!

スケジュールとしては、
1日目:広島へ。原爆ドームと平和記念公園、原爆資料館を見学。
2日目:宮島(嚴島神社)へ。その後、京都に向かいながらクラス別行動(研修)。
3日目:京都で班別研修。その後、金剛能楽堂にて能の見学。
4日目:京都でクラス別バス研修。太田へ帰還。
…といった感じでしょうか。全部を詳しくお話するのは難しいので、印象に残ったところなどを選んでお話しますね。

まずは広島。広島の思い出といえば、平和記念公園と資料館、宮島、そして広島風お好み焼き…‼ 初めて路面電車に乗ったんですが、ほかのクラスといっしょに乗る予定だった電車が遅れてしまい、平和記念公園と資料館を見学する時間が少し少なくなってしまいました。そうそう、資料館といえば。入ってすぐ、大変だったことが一つありました。…人多すぎぃ!! 資料室が外国人であふれていて、全然進まないし、見たい資料が見られないしで、だいぶ大変でした。でも、テレビで見ているだけじゃわからない、たくさんのことを聞いたり、知ることができました。夜ご飯は広島風お好み焼き。焼きそばの挟まったお好み焼きみたいな感じの…お好み焼き食べたことないですけど。すっっごくおいしかったです!! また食べに行きたいなぁと思いました。

京都に行く途中では、クラス別行動で姫路城に行きました。天守閣に登れるということで登ったんですが、外の石階段は段差が低くて幅が広いので登りにくく、天守内の階段は急すぎて降りるときに手すりにしがみつかないと降りられないぐらいでした。外敵の侵入を防ぐという意味もあったかもしれないけど、それにしたって昔の人すごすぎる…夜ご飯は神戸の中華街で食べました。タピオカとかフルーツ飴とか、流行りっぽい(?)食べ物もけっこうあってなんだか意外でした。姫路から京都まで一緒に行ってくれたバスガイドさんがとてもおもしろい人で、いろんな話をしてくれるので、バスでの移動中、退屈しなかったです。

京都では…初めて能を見ました。あまり見る機会はないし、聞く機会のないだろう話をたくさん聞けて楽しかったです。音を響かせるために、舞台の下に甕が入っているとか、着物の形や色に意味があって使い分けているとか…実に興味深かったです。班別行動では一念坂、二年坂、三年坂を登ったり、三十三間堂に行ったり、豊国神社で瓢箪形の絵馬を書いたりしました。特に夕ご飯に京都駅で食べたラーメンがおいしかったです。

四日目には練切を作る体験をしました。きれいに作るの難しかった…

なんだかんだありましたが、無事に行って帰って来られてよかったですね。書ききれなかったけど、他にもたくさんのおいしいものと興味をひかれるものたちに出会えました。またいつか行くことがあったら、時間の都合で見られなかったものを見たり、おこづかいの関係で買えなかったお土産を買ったりしたいです。

以上、とても端折った修学旅行の報告でした。

 

文芸少女折下ふみかの華麗なる冒険 その35

10月25日土曜日。土曜学習を公欠し、私たち文芸部が向かったのは高崎音楽センターであった。第31回群馬県高等学校総合文化祭の文芸部門交流会に参加するためだ、慣れない切符の購入に戸惑うこともあったが、何とか協力して高崎駅へ到着することが出来た。道中では文芸部員内の絆がさらに深まったように思う。

高崎音楽センターの会場前の公園で小ぬか雨にうたれながら食事をしていると、見覚えのある方々がいた。GWの直前に私たちと交流会をしてくださった太田高校文芸部の皆さんだ(そういえばあの日も雨だった。金山登山をあきらめて大光院まで散歩してから太女で句会をひらいたのでした)。面識があるからか、わざわざおもてに出てきてくれて、話しかけてくださり、待ち時間……というかお昼ご飯を食べる時間は、雨天に打ち勝つほど晴れやかな気持ちで過ごすことが出来た(途中から会場内で食事をさせてもらいました)。


交流会は13:30にスタートした。まずは第20回群馬県高校生文学賞表彰式がとりおこなわれた。残念ながら今年度は太女文芸部からの受賞はなく悔しい結果となったものの、表彰されている他校文芸部諸氏の背中を見て、次こそは……という燃え立つような向上心に繋がったのは良かった。
表彰式後には、句会が行われた。今回の句会は10人でひとつのグループをつくり、参加者が事前に提出した俳句三句を見せ合い、評価するという形で行われた。最初は緊張から小声であったり、極力話さない人が多かったが、じょじょに打ち解けてきて、相手の俳句の良さを伝え合うことのできる穏やかな空気になっていった。交流会を通し、他の文芸部の活動の様子を知ること、他校の方々と交流する機会を作ることができた……そう実感し、私は交流会の開催の意義を知った。
句会の最後にはグループ内の投票で優秀者を決めることに。私たち太田女子高校からもひとりの文芸少女が優秀賞に選ばれて面目躍如たるものがあった。部員のひとりとしてとても喜ばしかった(私じゃなかったのはくやしいけど)。これからのコンクールや句会などでよりよい作品をつくりあげることができるように、今後も部誌などの機会を通して精進していきたいとつよくおもった。

太女生の俳句
香り立つ金木犀の通学路
朝冷や淋しさに泣く曇り空
今はなきかつてを想う秋の暮
指絡み濁り酒には酔えぬまま
木犀の香に踊らされ覚めぬ夢
コスモスの色に魅せられ揺れる影
赤と黄の唐衣(からぎぬ)纏った山粧(よそお)う
丸っこい頬と銀杏我が子の笑顔
帰り道夕日で染まった赤とんぼ
また一つ秋を浮かべて錦かな
空渡り雁と見紛う飛行機よ
読書の秋ふと窓見ればつるべ落とし
金木犀頬をなでる六限目
秋の苦か昔を思う平均点
さわさわさわ食欲を呼ぶ稲の音

 

 

 

 

文芸少女折下ふみかの華麗なる冒険 その34

段々と肌寒くなり、冬の気配がする季節となった。道を歩いていると金木犀の匂いが漂い、秋の深さを感じる。紅葉や銀杏が色づき始めるのもこの時期だ。最近、家までの帰り道に銀杏の実がよく落ちている。余談だが、銀杏の実を食べるときにいつも実の鮮やかな黄緑色に驚かされる。お前、そんな色をしてたのか。
それはさておき、今回は私をノスタルジーな気持ちにさせるものについて書こうと思う。このお題も、ある意味秋らしくていいんじゃあないかと勝手に思っている。
突然だが、私は夕暮れが好きだ。太陽が地平線の彼方に沈んでいくあの様が好きだ。それに伴ってできる空も好きだ。オレンジでもなければ紫でもないあの曖昧な空の色が好きだ。私は好きなものを見てノスタルジーを感じるわけではないのだが、何故か夕暮れをみると切ない気持ちになってくるのだ。俗に言う「エモい」というやつなのだろうが、その三文字では収まらない“何か”が胸の中からこみ上げてくる。その“何か”に名前を付けたいが、私はそれにぴったり収まる名前を知らない。なので、近しいであろう「ノスタルジー」という言葉を使っている。この“何か”は、なにも夕暮れを見てるときだけ出てくるわけではない。日常の様々な場面に出てくるのだ。例えば、雨が降っている音を一人で聞いているとき。しとしとと降る雨音をぼんやりと聞いていると、得も言われぬ気持ちになる。また、神社や寺に行ったときもそうだ。古い建物を前にすると私の心は“何か”にとりつかれる。さらには秋という季節にも反応する。落葉を見ると例のやつが顔をだしてくるのだ。これらを書いていて今思ったのは「どれも儚いものだな」という感想だが、「本当に儚いだけですむ話か?」とも同時に思った。やはり言葉がでてこない。よく分からない感覚であることに変わりはないらしい。
だが、この感覚は嫌いではない。むしろ好きなほうである。胸の奥が締め付けられるが、不思議と心地がいい。物悲しくなることには変わらないのだが、何故か嬉しく感じるときもある。感性が人よりも豊かなのだろうか。何度考えても答えは未だにでない。
私はいつか、この答えを出したい。いつになるかは分からない。だが私はずっとこの気持ちと生きていくことになるだろう。現代は、人生100年時代と言われている。100年のうちのどこかでならきっと見つかるだろう。そう信じて生きていくことにする。いつか自分の言葉で、この感情を表現したい。

 

文芸少女折下ふみかの華麗なる冒険 その33

今、ネット上ではボーカロイドが歌唱する「ボカロ曲」というものが数多く投稿され、人気を集めている。この私もそのボカロに魅了されている一人である。人間離れした高音や早口を真似して歌えるかチャレンジしたり、落ち着いた曲を聴いてこのボーカロイドはぴったりの声をしているな、と考えたり……昔からボカロが好きだったからか、検索履歴をもとに出てくるのはボカロ曲ばかりで、あまり人が歌う曲に触れる機会がなかった(流行しているアニソンであったりは聴いてみているけれど)。とにかく何が言いたいかというと、私は投稿されたのが昔の大人っぽい曲をあまり知らないのだ。興味はあるけれど。
そんな中、この前珍しくYouTubeのおすすめに10年も前の曲が流れてきた。椎名林檎さんの「長く短い祭」である。好奇心で再生ボタンを押すと、私は一気にその曲に引き込まれた。リズム感、声・メロディの色っぽさ、歌詞の洒落た言い回し、MVのストーリー性……どれも私の好みであった。感銘を受けた私は興奮した様子で何度もリピートをしていた。
「ただいまー」
お母さんが帰ってきた。夕飯の準備をしに台所に向かっていく。数分間お母さんは何も言わずただ料理をしていたが、唐突に「椎名林檎さんの?」と訊いてきたので、私はこの曲に夢中になった経緯を鼻息を荒くしながら話した。「まさか10年前の曲にこんなに夢中になるなんて……私はボカロ曲とかばっかり聴いてたせいで、そういうのは合わないって思ってたよ」そう言うとお母さんはふふっと笑い「歴史は繰り返すからねぇ」と言った。ほう、と私が相槌を打つと、お母さんは話を続けた。「若い子でも結構昔の曲を好きになる子は多いよ。昔だろうと何だろうと、素敵な曲は素敵な曲だからね。」
それを聞いたとき、確かになぁと腑に落ちた。例え昔の曲だろうと、昔有名になったのだから、それ相応の魅力があるのだ。 私の中で、昔の曲は合わないという考えがあったのが不思議だ。いや、以前から気になってはいたのだ。深く足を踏み入れていなかっただけで。ああいった曲に憧れはあった。おそらく、流行に合わせようという考えが昔の曲に触れる邪魔をしていたのかもしれない。誰がどの曲を歌おうと構わないのに……。今後は自分の気になった曲は迷わず聴いてみようと思えた。
これは私の中で大きな転機だ。読み手の方々は大げさだなぁと思っているかもしれないが、自分の中では大きな、素晴らしい変化なのだ。きっと誰にでもそういった瞬間がある。そうして得た晴れやかな気持ちを、私は大切にしているのだ。今この瞬間私だけが感じている、そう考えてみれば素晴らしいとは思えないだろうか。
話が少しずれてしまったので、そろそろ締めようと思う。素敵な曲に出会えたことで、私は素敵な考えをするに至れた。そこで皆さんにもこの曲を是非聴いてみてほしい。私と同じくらいの年の方にも、そうでない方にも。既に「長く短い祭」を知っている方も、当時の思い出に浸るつもりでもう一度。私の中で変化があったように、皆さんに新たな発見や変化が起こると嬉しい。

文芸少女折下ふみかの華麗なる冒険 その32

◆文藝少女夏の一日◆

顧問のTセンセーから「連歌」をつくるという夏休みの課題がだされました。なんでもセンセーがたまたまみた「NHK短歌」という番組で連歌をつくるコーナーが紹介されていてそれにいたく感銘を受けたということらしいです。「連歌っていうのは短歌の上の句と下の句をそれぞれべつな人間が詠み継いでゆく文芸なんだけど、他人が紡いだことばのつらなりから刺激をうけたじぶんのことばをつなげてゆく行為がとてつもなく自由でたのしそうだったのよ」なるほど。とはいえ上の句、下の句と順番に詠みつないでゆくのでは時間がかかりすぎるということもあり、太女連歌の独自ルールをつくって作歌することにしました。

《太女連歌ルール》
①テーマは「文藝少女夏の一日」
②ポイントごとにコモンがあらかじめ句を詠んでおく
③部員の担当箇所を指定しておく
④指定された箇所から「一日」をイメージして好き勝手に詠む
こんな感じです。

ずいぶん乱暴な連歌ですが(はっきりいって連歌でもなんでもありませんが)、なんとか完成しました! わたしたちとしては大満足なんですけど、センセーのイメージとはじゃっかん食い違いがあるようで、「ううむ。写実的で説明的すぎて、あまり『詩的』な印象をうけないなぁ。短歌や俳句ではもっと大胆なことばつかいをめざしてみようよ」ってことでした。まあ、それはこれからの課題として、まずはできあがった私たちの連歌をご覧ください。文芸少女の夏の(アツい)一日が浮かびあがってきますよ。

朝 1  目覚ましはサティの曲と決めている     コモン
  2  暑い朝日と冷たい目覚め          ラギ
  3  顔洗う出てくる水はもはやお湯       銀平糖
  4  意識はシャキリ腹の音がなる        幻想翡翠
  5  朝食はたまごサンドと冷えたお茶      神樂坂
  6  腹満たし今日の予定に思い馳せ       みみず
  7  進まぬ気苦手教科を取り出して       ラギ
  8  青チャを広げ机に突っ伏す         銀平糖
  9  脳内で数字がタンゴ踊ってる        幻想翡翠
  10  風で風鈴はらはら踊る            神樂坂
昼 11  空腹は忘れたころにやってきて       コモン
  12  扉開けどうせだからと外食を        みみず
  13  涼しげな風鈴とともに扉抜け        ラギ
  14  悩んだ末に定番メニュー          銀平糖
  15  食べ終えてドアを開けたら青い空      幻想翡翠
  16  日は強けれど風心地よく          神樂坂
夕 17  少しだけそう言い聞かせお散歩へ      みみず
  18  稲の揺らめく碧緑の中           ラギ
  19  スーイスイあめんぼたんぼかわいいなぁ   銀平糖
  20  夕闇の中星が輝く             幻想翡翠
  21  音を立て煌めく空を纏う宵         神樂坂
  22  美しき景色に見惚れ立ち止まり       みみず
夜 23  「ごはんだよー」食卓の上に天の川     ラギ
  24  母の天麩羅天昇る旨さ           銀平糖
  25  風呂入り今日の疲れも吹き飛んだ      幻想翡翠
  26  洋服選び明日を思う            神樂坂
  27  何しよう思う時間は明日への投資      みみず
  28  新しい明日新たなわたし          コモン

 

文芸少女折下ふみかの華麗なる冒険 その31

 ブラウスを着てリボンを結ぶ。靴下をはく。いつものことだが、なにかソワソワして落ち着かない。落ち着かないのにいつもより時間に余裕があって、入念に髪の毛を整える。昨日切りそろえた前髪がヘンじゃないか不安になる。きっとこんな気持ちになるのは今日が私にとって特別な日、「誕生日」だからなのだろう。そんなことを思い巡らしているうちに時間は着々と過ぎていき、気づけばいつもの時間になっていて、私は急いで家を飛び出した。
 「誕生日」って言葉だけでワクワクする。古びたローファー、風で崩れた前髪、日光を反射させる腕時計、ありふれたいろんなものが私を幸せにさせるラッキーアイテムのようだ。
 学校に着くころにはその気持ちは収まっていて、教室までの長い道のりを重たい荷物と葛藤しながら進む。誰かが祝ってくれるかなんてあまり考えないようにして、それでも、かなり期待している自分と、祝われなかった時のために期待をしないようにしている自分、全部受け止めて、なにも考えずに教室のドアを開け席に向かう。
 日の光を浴びた艶のある髪を一つに結った私の友達と目が合い、挨拶を交わすと、「今日誕生日だったよね? おめでとー!」と優しい笑顔で私を祝ってくれた。うれしくてうれしくて、ありがとうと言った後もなかなか口角が下がらなかった。それを聞いていたクラスメイトたちも私の誕生日を祝ってくれ、期待していた気持ちがボロボロに打ち砕かれることなく朝が終わった。
 眠たくなるような(先生方ゴメンナサイ!)数々の授業を乗り越え、待ちに待ったお昼の時間。腹をすかせた女子高生の食欲はピークを迎え、そそくさとお弁当を広げた。友達と他愛もない話をしながらご飯を食べているとき、なにやら少し高そうなお菓子をもらった。お菓子なんていくらあってもいいですからね、「誕生日」だからダイエットは明日から、ううん、後夜祭もしたいから明後日からで。消費カロリーより摂取カロリーが多くなってしまうのは仕方がないよ、女子高生の食欲を侮るなかれ。きっとそれは運命に近くて逆らえない誘惑だもん。午後の授業で眠くなることなど関係なしにそれを頬張る。きっとこれを人は「幸せ」と呼ぶんだよね。
 私は私なりに「誕生日」を大満喫できたのでした。

文芸少女折下ふみかの華麗なる冒険 その30

9月。夜が段々と長くなっていく時期だ。そして、今はもう見る影もないが秋の始まりの季節でもある。ファストフード店で月見商品が売り出されるのもこの時期だ。余談だが、私はあまりこういった商品を食べない。食べられないわけではないが「限定商品」に踊らされたくないのである。それはさておき、秋の夜長と言えばやはり読書だろう。今回は最近読んだ本について紹介しようと思う。
その本の名前は『変身』である。『変身』はフランツ・カフカが1915年に発表した中編小説で、20世紀文学を代表する不朽の名作の一つである。カフカという名前を聞いて、真っ先に思い浮かべるのがこの作品だと思われる。
家族の生活を支えるために、真面目に働くセールスマンであるグレゴール・ザムザは、ある朝目覚めると巨大な毒虫に変身していることに気づく。変身したグレゴールは部屋に閉じこもるが、遅刻を心配した家族や、彼を問い詰める会社の支配人が部屋にやってくる。ようやく部屋の扉を開けたグレゴールを、家族や支配人は忌み嫌い、恐怖におののく。変身したことで仕事を失ったグレゴールは、収入の道を絶たれ、やがて家族からも厄介者として扱われるようになり……といった話だ。
私はこの小説を前々から読みたいと思っていて、あらすじはぼんやりと知っていた。偶然にも、新潮文庫が毎年発表している「高校生に読んで欲しい50冊」にノミネートされていたので実際に(ネットではなく!)本屋で購入し夏休みちゅうに読了した。
私の率直な感想は「家族ひどくね?」だ。いや、家族の気持ちも分からなくはない。ある朝起きると息子が虫になっていたなんて状況はおそらく一度も経験したことがないだろうし、虫になったグレゴールの特徴について書かれている文も読者がつい想像してしまうほどに細かく書かれているから相当気色の悪いものだったものだと思われる。だからとはいえ、急な手のひら返しには驚いた。しかもあとから分かることで、このザムザ一家、グレゴールが毎朝早く起きて必死に働いて家族を養っていたのだが、彼が変身した後に実は家族がグレゴールに内緒で暮らしていけるお金を貯金していたことが判明する。父にリンゴを投げられるわ、最愛の妹に”これ”呼ばわりされるわで、とにかくグレゴールが終始かわいそうなのである。
何故彼が虫になったかは作中では一切明かされない。伏線もなく、朝起きたら虫になっていた。その事実だけが淡々と書かれているだけなのである。とことんシュールな不条理小説なのである。
私はこのような文体の文章を初めて読んだ。物語内で起きている展開と、その展開を説明する文章とのギャップが大きくてどこか癖になる作品だと思った。『審判』や『城』といったほかのカフカ作品も読みたくなった。
『変身』は前述した通り中編小説なので比較的すぐに読み終わる作品だ。秋の夜長のお供にしてみてはどうだろうか。

 

文芸少女折下ふみかの華麗なる冒険 その29

私、折下ふみかは、オーストラリアでかなり勇敢だった。これはきちんと友達の保証付きである。
普段の私はというと、そこまで人と話すタイプではなく、どちらかというと対人関係においては消極的な人間である。そんな私のオーストラリアでの武勇伝(?)をお話しようと思う。

武勇伝① 

私はホストファミリーたちが忙しそうにしていたとき、特にすることもなかったので、ペアの友達と近所を散歩に出かけた。15分くらい歩いた先に、ドックランを見つけた。そこでは、5、6人の人たちが自分たちの犬を連れておしゃべりをしていた。普段の私だったらそのままスルーしてその場を通り過ぎるのだが、そのときの私はオーストラリア・モードだった。「私は人とコミュニケーションするためにオーストラリアに来たのだ」というスウィッチがはいり、勇気を振り絞って柵の10メートルぐらい先にいる人たちに向かってとても大きな声で言ったのだ(私としてはそれはそれは大きな叫びだった)。
「Can we enter here , please?」
「Sure.」
彼らはとても朗らかに答えてくれた。私はとてもほっとしたのを覚えている。誘われるまままにドッグランに入ると、大人たちの中にひとり金髪の可愛い女の子が裸足で犬と遊んでいた。私たちも彼女と一緒に犬と少し遊ばせてもらった。その時、私は再び勇気を振り絞って、その女の子に話しかけた。
「Hello. How are you?」
それをきっかけに、彼女とは会話がはずみ、その子が12歳だとわかった。「え、この子私より年下なの?」内心結構びっくりした。確かに犬と戯れている姿はわんぱくではあるが、大人っぽい顔立ちであったので、私と同じかそれより上くらいであると思っていたのだ。
帰り際そこにいた人たちに
「See you later.」
と言われたが、私はその日の翌日には帰国することになっていた。もう、この人たちとは会えないかもしれないと思うと、少し悲しかったが、楽しい時間が過ごせて良かったと思った。

武勇伝② 

私はそのとき、ホスト・シスターのテニスの練習を見に来ていた。ファザーとマザーは私たちをくるまから下して、別の用をしていたので、私はペアの子とふたりでテニスの練習を見ていた。少しして、新聞を持ったおじいさんが少し離れた椅子に座った。シスターの練習はまだ長そうだったので、またもや私は日本では出せない勇気を奮い起してその人に話しかけることにした。
「How are you?」
おじいさんに言った。話していくと、おじいさんは孫の練習を見に来ていたらしい。おじいさんはアメリカの出身で、50年前にオーストラリアに来て、そのままずっとオーストラリアにいるそうだ。私たちが日本から来ました、というと「孫の学校のクラスにも日本人がふたりもいるよ。それに、孫は今日本語を学校で少し学んでいるんだ」と教えてくれた。ここオーストラリアのケアンズでは日本人の観光客を多く見かけるが、住んでいる人も多いのだなと思った。加えて、日本語が日本以外で使われているのがなんだか嬉しく感じた。

どうですか。なかなかやるでしょ、私。勇気をもったひと言が一期一会をもたらす、というお話でした。

 

文芸少女折下ふみかの華麗なる冒険 その28

今年度のメンバー全員が揃った状態での、最初で最後の部誌『せせらぎ』189号が先日発行されました。ほんらいなら「創作余話」というカタチで本誌に載せたかった、作者の作品への思い入れやこだわりを集めました。みんなそれぞれにさまざまな視点や発想で創作しているんだなぁと改めてつくづく思い知らされます。合評の記事と合わせてお読みくださいませ。
なお、ネタバレを含む可能性もありますので、本誌をお読みいただいてからの閲覧をお勧めします。

『ずっと、大好きだから』銀平糖
この話を書いているとき、子供の視点で書くのは初めてだったので、新鮮な感じがしました。悲しいことがあっても、前向きに生きていこうとする子供がもつ明るさや前向きさを表現しました。

『神様になった少年の話』ラギ
大好きな先輩方の引退号となる、ということで、現在の自分に出せる全力を尽くして最高のものを書こうと密かに決めていました。花言葉や色の表現など、とことんこだわりました。とある推しの二次創作から着想を得たネタの、ifのifを出す予定で書いていましたが、途中で書けなくなってしまうハプニング(いつものこと)が起こってしまい、急遽予定を変更してifの話を書き上げました。想定外だったのは、登場人物が語り手の一人を除き、全員元ネタの人にそっくりになってしまったことです。元ネタがいる分、いつもよりキャラがしっかり定まったと思っていたんですが…ちょっと個性が強すぎたようです。もう一つは、一人が視点&語り役に徹した結果、名前くらいしかわからない謎の人物になってしまったことです。自分は気に入ったんですが、元ネタの人が口調にしか残っていないという…結果的には視点専用のキャラクター、という新たな試みとなりましたが。
補足:人名にふりがなを振ったんですが、一人抜けていました。「八朔日」は「ほずみ」と読みます。

『返事のない星』神樂坂
今回の小説が部誌に載る一作品目となる、肝心ですがどんなものがいいのか分からず書き始めました。今回の自分のテーマの「生きること」と「変化」を中心に、自分の経験したことのない遠距離の二人の関係を書きました。ぎこちない文になっていると思いますが、様々な視点から読んで楽しんでいただけると幸いです。

『身代わり姫と傀儡王』阿野二枡
引退作となりますので、執筆中はこれまでよりも背筋の伸びる思いでした。登場人物の名前や地の文の言葉に、読む方によっては実在の人物や舞台作品を連想させるものがあるかもしれませんが、色々な資料のごった煮から考えたので、特定の一作品・一史実の二次創作ではありません。主人公たちには、時代や運命に翻弄されながらも与えられた役割の中で懸命に生き、最後は幸せを掴んで報われてほしいと思いながら書きました。ヴィッツェルはヴィッテルスバッハ(バイエルンの名門貴族)、シエルージュはフランス語のCiel(「空」から「青」を連想して)+Rouge(赤)から採ったほか、普通に読んでも差し支えないものの、分かると少し面白いかもしれない言葉遊びが散りばめてあります。

『愛しい悪夢の中で』あきつさ
部活を引退するにあたって部誌に載せる最後の作品となるので、自分の好きな要素、書きたいこと、全部詰め込みました! 過去に囚われてしまう主人公は、きっと他人事ではないと思っています。苦しい中でも救いとなるような友人と出会えたら、それは一生物の宝だと思います。以下、入れようとしたけれど登場人物に却下されたセリフ。
(笑い声が響き渡る夢の中で)
「今ここで一発芸したらさ、どれだけつまんなくても大ウケしてるみたいだよね」
「……絶対にやめてね」

『思い出のお城』銀平糖
私が市の図書館で勉強していたとき、おじいさんが司書さんに「アメリカの地図を出してほしい。ハーストキャッスルを探したいんだ」と言っていたのが、この物語を書き始めたきっかけです。(←決して会話を盗み聞きしようと思ったのではなく、おじいさんの声が響いていたので、自然と耳に入ったんです)作者としては、読んでくれた方が少しでも楽しい気持ちになってくれたら、と思っています。

『おかえり』幻想翡翠
このせせらぎに初めて小説を載せるにあたって、活動場所であるコンピュータ室から見えた山から着想を得ました。とにかく神経質で、近寄りがたいけれど「静寂」という彼女には人一倍愛を注ぐ、どこか歪な彼の独白をどうぞ見守って頂けると幸いです。

『一蓮托生』みみず
部誌「せせらぎ」に初参加の私。今回の部誌でスタートダッシュがどう切れるかが、創作活動への自信やこれからの活動のモチベーションになる……そう考え、思い切って自らの好きを曝け出すことに決めました。とある高校生二人が抱える、懺悔と希望、そして歪な形の愛とそんな二人の結末とを、是非最後まで見守ってくれたらと思っています。

◆顧問からひとこと◆
毎度のことながら部員ひとりひとりの創作意欲に圧倒されます。高校生のわたしにこれほどの小説はかけなった(なにしろ処女作は大学1年生のときかいた400字詰め原稿用紙5枚の作品ですから)。表現力も構想力も素晴らしいものがあります。よみごたえじゅうぶんです。それぞれにスタイルをもちあわせていて(もちろんそれが個々人でも多様なんですが)次回作への期待を抱かせてくれます。せっかくなので個別に(「おとな」の立場から)助言らしきものをかいてみます。「阿野二枡」氏のかく作品のタイプはそもそも分量を要求します。丁寧に物語をつみあげて緻密にねりあげてゆけばもっともっと素晴らしい作品を生み出せるでしょう。「あきつさ」氏はある意味ダークファンタジーめいたものを確立しています。それをもっと大きな物語にできるとおもしろいですね。わたしは短篇しかかけないんですけどあなたには長篇を期待したいってことです。「ラギ」氏はおそらくあふれるものがおおすぎて自分で制御できていない状態だとおもいます。かくまえにプロットを練りあげる必要がある。発想はよいのでそれを生かしましょう。「銀平糖」氏は身辺雑記的なんだけれどそこにちょっと日常を逸脱したウイットめいたものが見え隠れする作品をかきます。「ずっと好きだから」はぼかしすぎましたかね。図書館でのエピソードから「思い出のお城」にいたる脳内変換はだれにもまねできません。ほとんど体験談じゃないのに展開の自然さがすばらしいです。1年生は(ごめんなさい、ひとまとめにします)はじめてとはおもえない力作ぞろいです。でもやはりはじめてなりに共通した「はじめて」らしさに満ちています。それは観念的な作品になりすぎているってところです。モチーフが心情的なものであり、そのことだけをぐいぐい押してくる傾向がつよい。作品の中心はそれでいいんですけど、それをもっと物語でおおいかくす工夫があるといい(と、わたしはおもいます)。次回作は展開にこだわってみましょう。

文芸少女折下ふみかの華麗なる冒険 その27

7月24日木曜日に太田高校文芸部との読書会の後、句会を開きました。

今回は通年通りに各自の俳句に投票してその得票数を競う形で行われました。俳句のテーマは「天」で、なかなか難しいテーマだと思ったのですが、顧問の先生含めその場にいた全員がおもいおもいに俳句を作っていました。

 

 

 

 

 

 

一人あたり二〜三句作り、作者名を伏せた状態でそれぞれの句を見て、各々がいいなと思った句に投票しました。王道のスタイルを貫いている句や意外性のあるユーモアな句まで様々な句ができました。
さて、一番票が集まったのは……!?

「銀世界交わり溶ける曇り空」

なんと我が太女の一年生の句でした! いやあ、素晴らしい。めでたいですね。
途中で時間が押してしまい、全員が句の説明をすることは出来ませんでしたが、とても有意義な時間になりました。太田高校文芸部の皆様、このような会を開いて下さり本当にありがとうございました!

冬休みには太女でお待ちしています。

《参加者の俳句》

笹の葉や流るる星の絶えず春    白い雲夏の訪れまた一つ     
水鏡天を泳ぐは花筏        冬の陽の沈む早さやまた明日
稍寒や離れつつある背と高さ    風見えて夕立見上げ雷を
天翔る暗夜の遠く夜這い星     天井のシミを数える冬の暮
凧揚げの映ゆる休日天晴や     イカ天の余韻丸めて飯を食む
映えるかなキラリ瞬き雲の峰    水田の早苗と踊る夏空よ
銀世界交わり溶ける曇り空     田園の水鏡に立つ雲の峰
雲間から零れる光光芒よ      瞳見てハッと気付いた青い夏
始皇帝ギャグで冷やし中華統一   朝顔は夕立時も天を向く
夕立は天の神様の腹の音      天泣の雲の上には宝石箱
夏夕に手を掲げれば天叢雲     天神にほおった銭を惜しむ春
天然の氷をうたう俗な店      天高く澄んでも低く老人星
赤日を馳せては仰ぐ星月夜     燦燦と花と会話の咲く春日
桜かな終始祝われ君は行く     天日干し梅を転がす祖母の背に
ふと転び意識は既に天の上