カテゴリ:文芸部
文芸少女折下ふみかの華麗なる冒険 その64
こんにちは、折下ふみかです。今回は10月24日に文芸部が参加した表彰式と交流会の話をしたいと思います。当日は土曜学習だったのですが、朝から公欠を頂戴し文芸部が向かったのは高崎にある群馬音楽センター。そこでは群馬県高校生文学賞表彰式と群馬県高等学校総合文化祭文芸専門部交流会が行われました。たくさんの学校が各地から参加し、中には一人で多くの部門の症状をもらっている人なんかもいて。
今回、太田女子文芸部では三人が佳作をとることができましたが、残念ながら優良賞以上しか賞状をもらうことはできませんでした…。私も佳作を取れた身として、高校生で初めての表彰を楽しみにしていましたが受け取ることはできなかったので、次回は優良賞以上の結果を目指して頑張りたいです!
また、交流会では1班5人の10グループに分かれて自分で作った短歌の批評会などをしました。初対面の人しかおらず、年上ばかりでその上いつも作っている俳句ではなく短歌を作ることになったのでかなり焦りましたが、班の人はみんな親切でとても救われました。テーマも自由だったので、各々の持っているセンスが光るような批評会になりました。私が作った短歌は、
町とおり 靴濡らし行く 会場へ 思い出すのは 友と来た休日
というものです。他の太女生が作った短歌も教えていただきました。せっかくなので、ここにいくつか載せたいと思います。
松屋見て 腹を空かせる 十一時 あと十分が 待ち遠しくて
傘さして 友と歩いた 雨の道 色づく葉っぱ 秋の訪れ
ぱらぱらと 降り積もりゆく 秋時雨 色づく木の葉も 下を向くかな
着眼点が私とは全く違い、驚きました…。他の高校の方々の短歌もどれも素敵で、学ぶところがとても多かったです。特に私が格好いいな! と感じたのは、逆説の言葉を一番最後に持ってくる書き方をしていた短歌です。「私は~だが」で終わっている短歌を読んだ時、それはそれは痺れました。
交流会の後半では、文学賞の選考委員をやってくださっている歌人の石原秀樹先生から好評をいただき、先生の詠んだ短歌を紹介してくださいました。それは本当に会場までのみちすがらの情景を三十一文字におさめた作品でした(先生はいちどしか詠んでくださらず、板書もなかったので、こまかい内容はわすれました。スミマセン!)でも、そんな風に日常を切り取ればいいのかとたいへん勉強になりました。
今日の授賞式&交流会では賞状はもらえなかったけれども、とても有意義な時間を過ごせたと感じています。次回は優良賞以上の結果を目指し、文芸部活動に励んでいきたいと思います!
文芸少女折下ふみかの華麗なる冒険 その63
無事、中間テストも終わりやっと解放!(結果は聞かないでくれ) やったぁ! ……と思ったのもつかの間、私たちには待ち受けるイベントがあった。
それは大学見学! それは仲間とともに目指したい大学へ行き、その場の空気を感じ、そしてより一層大学受験への意識を高めよう──といった趣旨のものだ。
皆さん知っての通り、私は本の虫だ。もちろん進みたい大学も文系だ(漠然としか決まってはいないが)。今回行ったのは某D大学と某S大学だ。
D大は理系なのであまり関係ない! と最初はバッサリ切り捨てていたが、案外興味深いものがあった。例えば、対話型AIアニメキャラクター。絵が動いてる! と驚愕したものだ。「Live2D」という技術で動いているらしい。そんなのもあるんだ……。技術の進化、恐るべし。
次はS大だ。S大は文系の大学で、まだこちらのほうがわたしの将来にあっているといえるだろう。少人数体制の教育が売りの大学で、キャンパスもそこまで大きくはないが、その分学生間の交流が盛んだそうだ。学年を超えての交流もあるそうな。その日はちょうど体育祭を行っていて生徒はあまり見られなかったが、ちらほら見かける学生を見ただけでも確かに交流が盛んな印象を受けた。
興味が沸いた分野は増えたものの、結局ここに行きたい! と心を強く打たれた大学はなかった(まぁ、そもそも将来の夢もしたいことも特にないのだが)。
でもまぁ、急いで決めてしまっては逆効果というものだろう。幸い、私にはまだ時間がある(はず)。こころに余裕をもってじっくり決めればいいや。
やむなしやむなし。(と、高をくくっていた私は、10月末にある模試の日にもだえ苦しむことになることをまだ知らない……おまけに11月の中旬には二者面談があるのだよ。そのときにはなんとなくカッコウをつけておいたほうがいいよ、ふみかさん!)
文芸少女折下ふみかの華麗なる冒険 その62
まずい、全然テスト勉強が進んでいません。どうも皆さんこんにちは、折下ふみかです。もうすぐテストなのに全然勉強ができていません。最近インフルエンザにかかり一週間程学校にいけなかったので勉強が少しピンチです。課題もまだまだありますし、友達に休んでいた分のノートも写させてもらわなければいけません。なんで、もっと早くから課題に取り組まなかったのでしょう。私は昔から計画性がなく直そうと思ってもうまくいかず高校生になってしまいました。でもそんな私にも心に決めていることがあります。それはしっかり課題を提出することです。提出しないと私のプライドというのでしょうか私の心の中の何かが許さないのです。でも、課題のことばかり考えていると気がめいり逆に集中できなくなってしまうので楽しかったことを思い浮かべようと思います。
ご存じの方もいらっしゃるかもしれませんが先日、太田女子高校の学校公開がありました。私が所属している文芸部もたくさんの方に来ていただき喜ばしい限りでした。文芸部が作っている冊子「せせらぎ」も予想よりも多くの方に受け取ってもらい、数が足りなくなる程でした。部活動見学の際は中学三年生とお話をしたり、中学三年生を待っている間も黒板を使って絵を描いたりすることができて楽しい一日を過ごすことができました。中学三年生はすごく可愛くてしっかりしていてすごいなとお話をしていて思いました。私は中学校時代あまり後輩と関わらない部活動に所属していたので、年下の方と話すのに慣れておらず圧をかけていなかったか心配ですが何事も経験だと思うので次に年下の方と関わる機会があったら、今回の反省を生かして対応できるようにしたいです。私はこれからテスト勉強をしなければならないのでここでお暇させていただきます。私もテスト勉強をがんばるので皆さんも勉強がんばってください(中間テストは10/7からです! 時間足らないよー!)。
文芸少女折下ふみかの華麗なる冒険 その61
「折下先輩、これはどこに置けばいいのですか?」
ふみかが後ろを振りかえると、図書委員の後輩である小栗安奈が十冊くらいの本を抱えて立っていた。
「それらの本はここからまっすぐに行って、右の角にある本棚に置いてちょうだい」
「わかりました。ありがとうございます」
安奈はそういうと、すばやく本棚の蔭に消えた。折下ふみかと小栗安奈は図書館の蔵書整理を手伝っていた。ふみかのもとに戻り、別な書棚から書籍を取り出す作業を手伝いながら安奈がつぶやく。
「折下先輩、そういえば最近は図書館に来る人が少ないですね」
「文化祭も近いし、みんなは精一杯準備をしているから仕方ないよ」
ふみかはテーブルのうえに山積みにされた本のバーコードをバーコードリーダーで一冊ずつ読みこんで、本の山を崩しては積みあげてゆく。安奈はバーコードのチェックがすんだ書物を書棚にもどす作業をつづける。
「そういえば、杏奈ちゃん、あなたたちのクラス企画は順調に話がすすんでるの?」
杏奈は本の山から目を離し、ふみかを見る。
「まだ何にするのかを話し合っている途中で、具体的に何をするかは」
せっせとバーコードを読み取っていた手をとめてふみかは、不思議そうに安奈をみあげる。
「あれ? 太田焼そばの歴史を調べて、究極の太田焼きそばを作るっていう企画じゃなかったっけ?」
「ええ、最初はそうだったんですけど、『太田焼そば』のコンセプトのことで喧嘩になっちゃいまして」
杏奈は頭に手を置きながら苦笑いした。
「みんなは、太麺か細麺か、ソースは辛いのか甘いのか、そもそも究極というからには麺やソースを手作りにしないと意味ないんじゃないかとか、喧喧囂囂、侃侃諤諤、どうにもこうにもまとまりそうもなくなちゃって。とりあえず、また次のロングホームルームでもう一回話し合うことになってます」
「そうなんだ」
ふみかは頷く。
「杏奈ちゃんはやはりすごいよね。そんなカオスめいた状況でもあきらめずにクラスのみんなが議論し合えるように調整しようとするなんてさ」
「いえいえ、そんなことありません」
ふみかの言葉で、杏奈は慌てて頭を横に振る。
「私は、まだリーダーとしては不甲斐ないです」
そんなことないよ。だって、杏奈ちゃんが何度も先生から褒められるところを見たから。ふみかはそれらの言葉をのどもとでおしとどめ、そのまま黙り込んだ。
「私のクラスの出し物も実はまだ決まっていないんだ」
杏奈は彼女の言葉で驚いたように聞き返す。
「折下先輩のクラスが、ですか?」
「そうだよ」
正確には、ふみか自身もよく状況がわからなかった。最近では部活の原稿の提出に追われて、文化祭に関わる話し合いのことを頭から締め出していたのだ。ううむ。これじゃいかんな。クラスのメンバー失格だ。杏奈のような責任を持っている、まじめな頑張り屋さんになれたらな。ふみかはそっと心の中でつぶやいた。
文芸少女折下ふみかの華麗なる冒険 その59
◆合同読書会&句会の報告◆
2026年8月18日火曜日、午後1時30分から、太田高校図書室にて毎年恒例の読書会&句会が催されました。その日も太陽が照りつける酷暑でありましたが、わたしたち太女文芸部員はアスファルトの照り返しをものともせず、意気揚揚と太田高校までの道のりを歩いたのでした。太田高校文芸部員による、ご丁寧な出迎えを受けまして、わたしたちは校舎3階の図書室に到着したのでした。
第一部 読書会
テキストは村上春樹の「カンガルー日和」(村上春樹は『風の歌を聴け』で1979年に文壇に登場。「カンガルー日和」は『1973年のピンボール』(1980)と『羊をめぐる冒険』(1982)のはざま、1981年に『トレフル』という雑誌に掲載された初期の短篇。今回のテキストは初出作品に大幅な加筆が施された『村上春樹全作品』所収のもの)です。動物園のカンガルーが赤ん坊を産んだということを新聞の地方版で知った男女ふたりが、カンガルーの赤ん坊を見物するのに相応しい朝を待ち受けてひと月を無意味にやり過ごし(それが人生)、ようやく巡り来たカンガルー日和に勇んで動物園に出かけたものの、カンガルーの赤ん坊は赤ん坊らしくなく成長していて、なんとかその赤ん坊が母親らしいカンガルーの袋に収まるようすを見られてよかった(?)、というのがあらすじです。わたしは村上春樹の「僕」によるいろんな「決めつけ」が気になりました。ひじょうに訳知り顔なのです(たとえば「女というのは実にいろんな可能性を思いつくものだ」とか「これまで女の子と議論して勝ったことなんて一度もないのだ」とか)。「僕」が「女の子」全般をさもわかったような口ぶりなのです。私ならこんな「偉そうな」男の子のことは好きになれませんね。「カンガルー日和」がぜんぜん「カンガルー日和」じゃなかったという皮肉を描くことがテーマだとして、それが人生(繰り返しでてくる)だとして、それをなんとなくおしゃれな文体でなんとなくおしゃれな男女ふたりの物語として「僕」がしゃべっているのが「カンガルー日和」なのでは? というのがわたしの感想です。わたしは一人称で書くということの腹のくくりかたを学びました。一人称で書くということは「僕/私」の視点を逃れられないということです。語り手の個性が作品の価値になります。じぶんの感受性「だけ」にたよるには相当の覚悟が必要ですね。
第二部 句会
太田高校文芸部は句会を中心に活動しているということもあり読書会のあとに句会が催されました。お題は「まつ」。今年は5月の金山ハイキングのときにみんなで俳句を詠んでいるので、多少敷居は低くなりましたが、太女文芸部では小説を書くことが活動の主流なので、一句ひねるだけでもかなり手こずらされました。できあがった俳句をみんなで鑑賞し、よいとおもった作品に投票します。その結果が以下のとおりです(数字は得票数です)。太女生はひとり一句つくるのが精いっぱい。太高生は二句も三句も詠んでいて、さすがのひとことです。それでも太女生の作品が上位に支持されました。面目躍如ですね。わたしがなんとかひねり出したのは「夏祭マツモトキヨシで待ち合わせ」です。なさけねー。
12 待ちぼうけ釣り糸垂らし汗垂らし(太田)
11 幾年も待つ君に吹くあいの風(太女)
10 アスファルト香り薫ればまつりかな(太田)
10 西日さす松の青さが夏惜しむ(太女)
7 松かさを焚火にくべて芋を焼き(太田)
7 浴衣着て待つ影遠く走りだす(太女)
6 手には触れて影を待たずに日傘差す(太田)
5 末枯れや寂しくなった通学路(太田)
5 冬木立手を擦りながら君を待つ(太田)
5 雲払え窓から望む望月(太田)
5 歳末に松の木の下で待つマッチョ(太田)
4 降り注ぐ初音を待った花々に(太田)
3 Yシャツをパタパタさせて秋を待つ(太田)
3 親の帰宅茉莉花茶飲みぽつり待つ(太女)
3 待ち侘びて休載宣言告知の今日この頃(太女)
2 マツコ・デラックスしゃべれぬ日かな(太田)
1 朝三時星空の下トイレ待つ(太田)
0 幸福に包まれながら松納め(太田)
0 夏祭マツモトキヨシで待ち合わせ(ふみか)
私のお気に入りは「マツコ・デラックスしゃべれぬ日かな」と「親の帰宅茉莉花茶飲みぽつり待つ」です。「まつ」をマツコや茉莉花茶につかったりするセンスは秀逸ですよね。太女生は「待つ」や「松」を乗り越えられずにいます。もっと自由な発想で俳句を詠みましょう(わたしみたいにね)。
文芸少女折下ふみかの華麗なる冒険 その58
日差しが照りつける八月上旬。部屋に謎の引力が生まれたように、私は外に出られなくなっていた。夏休みの課題にもなかなか手をつけられていない。それなのに、遊びの予定が入るとそちらを優先してしまう。やるべきことより、今やりたいことを選んでしまうのは、人間の性なのだろうか。
そんなことを考えていたとき、友達から一通のメッセージが届いた。
「今日、バーベキューしない?」
一瞬だけ課題のことが頭をよぎったが、すぐにその考えは消えた。せっかくの夏休みだ。夏は夏らしく遊び倒そう。そう決めた瞬間、終わっていない課題は頭の隅へ追いやられていった。
バーベキューができる河川敷まで、自転車を全力で漕いで向かう。刺すような日差しが肌に当たり、まるで我慢勝負を仕掛けられているようだった。それでも、自転車を走らせているときに通り過ぎる風は、暑さと湿気の中では意外と心地よい。脚が疲れて、だんだん動かしづらくなってきても、もう少しこのまま漕いでいたいと思った。
河川敷に着くと、器具を持ってきてくれた友達が先に準備を進めてくれていた。年に一度はバーベキューをしているらしく、火の起こし方などを教えてもらいながら、慣れない手つきで準備を進めた。
食材は、それぞれが食べたいものを事前に買っておき、当日になって見せ合うことにした。私は玉ねぎ、ピーマン、牛タン。友達はとうもろこし、ウインナー、かぼちゃを持ってきた。
慣れた手つきで火を起こす友達を横目に、私は野菜を切り続ける。しばらくすると炭の香りが漂い始め、食欲がどんどん湧いてきた。まずは焼けるのが早いウインナーとピーマンを網に並べる。定番の焼き肉のたれに加えて、変わり種として持ってきたワサビのチューブも試してみた。
これが意外にもウインナーによく合う。思った以上においしくて、箸が止まらなくなった。
ひとしきり食べ終えると、お腹はすっかりいっぱいになっていた。椅子に深く座り、少し傾き始めた太陽を眺めながら一息つく。普段ならなかなか話さないようなことまで、友達とゆっくり語り合った。
なんだか照れくさくなってきて、最後は川で少し水遊びをしてから片づけをした。
帰り道、今日一日のことを思い返しながら、自転車を漕ぐ。課題はまだ終わっていない。
明日は勉強ばかりすることになるだろうな。
そう思いながらも、不思議と後悔はなかった。夏は夏らしく遊び倒す。それも、きっと夏休みの過ごし方の一つなのだと思う。
文芸少女折下ふみかの華麗なる冒険 その57
◆ふみかのSF的日常◆ 後篇
【どういうこと?】
わたしは百年後の後輩にむけてキーボードを叩いた。
【生成AIが作った物語が文化祭をのみこんでしまったんです】
なんですって! これはもしかすると「宇宙密室殺人事件」をしのぐおおごとなのでは?
「最高じゃない!」
「最悪じゃない?」
「未来の文芸部員が困ってるんだよ。先輩としては放っておけない案件でしょ」
「百年後の後輩ね。実感わかんわ」
わたしは腕を組んだ。
「迷宮化した文化祭、AI小説生成機。つまり物語的因果律が動いている」
「強引じゃないか?」
「事件にはジャンルがあるってこと!」
わたしは机を叩いて、栞を論破しようとした。
「推理小説なら謎を解けば出口。SFなら装置を止めれば解決。映画ならクライマックスまで突っ走る!」
「あんたにはついていけん!」
わたしは即座に返信した。
【どうしたら助けられますか】
【AI小説生成機を破壊してください】
【それはむりですよ。時間軸の矛盾をはらみます】
【おや、あなたはSF小説ファンですか?】
【そうです。大好きです。】
【わたしもです】
【未来人がSF好きって、なんかおかしいですね】
「そんな世間話してる場合か!」
栞のツッコミにうろたえたのか、返事が途絶えた。画面からウインドウも消えた。その瞬間、校内放送を告げるチャイムが鳴った。『文芸部員の折下ふみか、大至急、職員室まで来なさい』顧問のアシダ先生だ。
「……締め切りの件じゃない」
「たぶんね」
わたしは栞を従えて、職員室へ向かった。顧問のアシダ先生は椅子をくるりとまわして、ふたりを見あげた。
「本間さんもいたのか」
「はい、たまたま」
「で、要件はなんでしょうか?」
「演劇部がさ、文化祭でコラボしたいって」
「コラボ? 原稿の催促じゃなく?」
「それはまだいいよ。まにあうから」
「まにあうんですか」と意表を突かれた栞。
「まにあうよ。折下さんの遅筆をみこしているからね。で、演劇部の件だけど、脚本をかいてほしいんだって。いま、ホンを書ける部員がいないらしくてさ。手伝ってあげなよ」
わたしは栞の肩をつかむと、ぐらんぐらんゆすった。栞にはその勢いの意味が読めなかった。なになになに。栞を解放し、アシダ先生に向き直ったわたしは、わかりましたと頭をさげると栞を引きずるように、いや本当に引きずってコンピュータ室にもどった。
「……来たね」
「なにが?」
「時空は閉じたのよ」
「説明!」
わたしは創作ノートひらくと、乱暴に書きなぐった。「文芸部員は昼寝でも夢を見る2137」。
「あんた、授業中のうたたねでも夢を見るの?」
「わたしたちのSF的体験を芝居にするのさ」
「なにも解決していないのに?」
「書けば解決する。それが物語の必然」
窓の外では夕焼けがあかあかとにじむようだった。わたしはにやりと笑った。そのとたん、コンピュータの画面にウインドウが開いた。2137年からのメッセージである。
【物語を救うにはあらたな物語が必要です】
【つまり?】
【現在のあなたが、未来の私たちを救い出す物語を書くんですよ。そうすれば……】
【そうすれば、未来の物語が現在のメタ物語でひっくり返される! それをこっちの時間の文化祭で芝居として上演すれば効果テキメン!】
【スバラシー!!!】
わたしは栞そっちのけでキーボードを叩き始めた……
部誌の原稿もまだかたちをなしていないのに、ふみかは文化祭用の脚本をかこうとしているのか。私、本間栞は核心をつくその疑問を飲み込むことにした。ふみかは、おそらく、やりとげるだろう。ふみかは誰よりも物語のちからを信じている。そして、追い込まれるほどに実力を発揮する。わたしはそのことをだれよりも、折下ふみか本人よりも知っているのだ。
太田女子高校文芸部。歴史はあるけど、部室はない。だが想像力の置き場所には困っていなかった。(おしまい)
文芸少女折下ふみかの華麗なる冒険 その56
◆ふみかのSF的日常◆ 前篇
わが文芸部の歴史は太田女子高校の歴史そのものである。学校創設とほぼときを同じくして産声をあげた(らしい)。それなのに、部室はない。活動費はある(少ないけど)。今年は新入部員が9人もきてくれた(そのなかのひとりは2年生だよ)。総勢14人の大所帯である。文芸部はコンピュータ室の一角を借りてほそぼそと活動している。活動日は火曜日と金曜日。きょうは水曜日だからだれもいないとおもったのに、本間栞がきていた。
「どしたの?」
「それはこっちのセリフでもある」
「ここさ、穴場だから」
「うふふ、おぬしもワルよのぉ」
夏である。おもては酷暑である。どこもかしこも暑い。おおくの生徒は自習室に足を運ぶが、そのせいで混雑している。コンピュータ室をつかっているのは理科研究部情報班と文芸部だけ。部活のふりして勉強をしようというはかりごとである。
「栞ちゃんはなにするの?」
「数学の課題。めっちゃむずかしい。ふみかは?」
「わたしは部誌の原稿書き」
「あれ? 締め切りはきのうじゃない?」
「しーっ!」
「関係者はだれもいないけど」
「催促されるまで提出しないのが文豪ってものよ」
栞は鼻でわらった。
「で、どんなやつ書いてんの?」
「宇宙密室殺人事件」
「宇宙がそもそも密室じゃない?」
「そこが盲点なのよ」
「盲点じゃなく、弱点でしょ」
さすがは学年トップクラスの秀才、本間栞である。いうことが正論である。栞の指摘は聞かなかったことにして、わたしは創作ノートを開いた。そのとき、文芸部専用の古臭いプリンターが突然動き出した。ガガガガ、ウィーン。
「きゃっ」
わたしは栞と顔を見合わせる。そのあとの反応ははやかった。席をたつと、プリンターに駆け寄る。A4のコピー用紙が一枚、ぺろんと一枚出てきた。まるで化物のベロのように。そこには太字でこう書かれていた。〈タスケテ 2137ネンヨリ〉。
「なにこれ」
「……ドッキリ?」
コンピュータ室のおくのほうでは情報班のものたちがなにかやっている。このプリンターにアクセスできるのは文芸部だけ、のはず。
「な、わけないか」
わたしはそのあやしげな紙を慎重につまみ上げ、探偵のように目を細めた。ジャケットのポケットをさぐる。
「なに探してんの?」
「おおきな虫眼鏡」
「そんなの持ち歩いてたっけ?」
「いや」
なんだそれ。栞はわたしから用紙をうばいとり観察する。
「インクは新しい。文字バケなし。紙送りも正常。プリンターにしこまれたなんの変哲もないA4のコピー用紙ね。だけど、発信先は2137年。つまりこのプリンターは百年以上さきの未来とつながっている」
「ワームホール的な?」
ごごごっとうなり音がきこえ、もう一枚の用紙がアカンベェよろしく吐き出される。〈ぱそこん二 ムカヘ〉。
わたしたちは文芸部のパソコンにもどった。わたしが使っていたパソコンの画面に見慣れないウィンドウが開いている。【時空同期率 3%】。
「うわ」
「うわ、っていったね、今」
わたしは震える指でキーボードを叩く。
【あなたは誰ですか?】
数秒後、画面に返事が出た。
【2137年の太女の文芸部員です。花子といいます。コンピュータ室にいます。】
「未来でも部室なし!?」
「そこ継承されるんだ……」
さらに文面が続く。
【たすけてください!】
【どうしたの?】
【文化祭展示用AI小説生成機が暴走し、文化祭が迷宮化しました】
わたしの目がキラリと輝いた。とおもう。実際にはじぶんでみたわけじゃないけどね。(つづく)
文芸少女折下ふみかの華麗なる冒険 その55
7月。上半期も終わり、いよいよ下半期へ差しかかってきた夏の日。
私、折下ふみかは、炎天下一人自転車を漕いで学校へ向かっていた。ちなみに夏休みは始まっている。なのに、何故登校しているかというと。
夏季課外があるからである!!
もう慣れたが、1年生のときは「え!? そんなものがあるの!?」と驚愕していた記憶がある。今は慣れた。本当に。ただ、結構億劫であることには変わりない。前期だけじゃなくて後期もあるし。何がたのしくてエアコンの効いた愛しの我が家を離れて、日差しの厳しい外に出なければいけないのか。最近は外の気温も日に日に上がっていて、もはや熱中症は避けて通れないほどになっている。日傘と手持ち扇風機は手放せない。紫外線は肌の天敵だから日焼け止めとアームカバーもマスト。そんなこんなで、いろいろ準備して汗を滴らせながら学校に行くのだが、教室に入ると中はがらんどう。人が全然いない。一限目の開始時刻が迫っているというのにだ。気持ちは分かる。うんうん分かるよ。行きたくないよね、そりゃあね。強制でもないもんね。確か。じゃあ偉くない? 私偉くないか? うん。偉い。偉すぎる。ちゃんと後期も出席するつもりでいるし。偉いな、私。
などと自分を鼓舞していると、教室がやけに暑いことに気付く。そうだ。まだ扇風機もエアコンもつけていないじゃないか。やーれやれ、しょうがない。私がつけるとしますか。
幸いにも私の机の位置は教卓に近く、電源の集合地にも近い。私は手持ち扇風機を片手に、扇風機とエアコンの電源をオンにした。はずだった。
「はい?」
扇風機の電源はついたのにエアコンの電源がつかない。何度押しても「中央管理中」となっている。は? もう始まるんですけど? 授業。おかしい。いつもなら8時を過ぎたらつくはずなのに。このままでは蒸し蒸しの空気が充満した教室で授業を受けなければいけなくなる。それだけは嫌だ。ただでさえ外が暑いのに教室も暑いとか無理過ぎる。謎にエアコンがつかないのは私のクラスだけなのかと思い、隣のクラスの子に聞いてみたが、どうやら隣のクラスでもエアコンがつかず困っているようだった。自分のクラスだけエアコンがつかないなどということではなかったのはいいが、問題が解決したわけではない。授業開始のチャイムが鳴るのも、もうすぐだ。あ、終わった。今日はもうダメだ。セルフサウナ状態で授業だ。最悪だ。こうなっては腹を括るしかないか…と思い、私は自分の席で碇ゲンドウポーズでチャイムが鳴るのを待っていた。
課外の1時間目は8:40にはじまる。時計の長針は8:35を指そうとしていた。教室の座席もクラスメイトでほぼ埋まった。私が密かにあきらめの境地に辿りつこうと覚悟を決めているとき、教室に滑り込んできた同じクラスの子が最後の悪あがきと言わんばかり(私にはそう思えた!)にエアコンの操作パネルに近づき、電源スイッチに手を伸ばした。その子に対し、諦めるんだ。今日のエアコンはこちらの言うことを聞いてくれないんだから! と声には出さず思ったのもつかの間。
ピ! ピィ……(起動音)
先刻の抵抗はどこへやら、エアコンは素直に稼働し始めたのだ。瞬時にクラス中に歓喜の声が溢れる。それをよそ目に私は、
「えぇ…」
とため息が出たのであった。
文芸少女折下ふみかの華麗なる冒険 その54
◆「せせらぎ」191号◆
部誌「せせらぎ」191号が完成しました。
ひとまずデジタル版をアップします。
アナログ版は7/21には完成する予定です。
今回も力作ぞろいです。
たくさんのひとに読んでもらえるとうれしいです。
読後の感想はお近くの文芸部員にお寄せください。