カテゴリ:文芸部

文芸少女折下ふみかの華麗なる冒険 その20

◆『せせらぎ』188号合評◆
発行したのは2025年1月31日でした。2月にはいると学年末試験やら高校入試やらでいそがしく、3月には卒業式で3年生の先輩たちとお別れし、なんだかんだで春休み。なにをいいたいのかというと、『せせらぎ』は発行はしたものの合評をする機会がなかったという言い訳です。そうこうするうちに189号発行のために原稿をしあげる時期になってしまうので、われわれは重い腰をあげて、5月2日金曜日の放課後図書室に集まりました。新入部員にも参加してもらい、総勢7名のにぎやかな会になりました。じぶんでいうのもなんですが、太女文芸部の作品は個性的なものばかりです。発想にしても表現方法にしても独自な世界をつくりあげています。おたがいの作品を評価しながら、じぶんには足りないものに気づけたよい時間でした。以下、「わたし」がそのようすをまとめたものを掲載します。じっさいの作品は「文芸少女折下ふみかの冒険」その14で公開しています。ぜひおよみください。

「ひとりになりたい池井君」
A クラスで孤立しているようにみえる「池井君」に興味本位で話しかける女子高生「私」の顚末を描いた作品。
B「私」のJKぶりがリアリティをもっているよね(まあ女子が書いてますから)。
C「背後にきゅうりを置かれた猫みたい」だとか「冷たい水を飲み込んだときのように」といった直喩が効果的です。
D「私」、「僕」といった登場人物の一人称が語りとして巧みに描き分けられているなかに、突如「背後で鳴った、空気のこすれる音は聞こえなかった」という第三者視点をおりこむ技がみごとです。
E ひとりぼっちであるような「池井君」がどうしてひとりになりたいのか、その結末がこわいけどほのぼのしちゃうのはなぜかしら?
F 全篇がコミカルなタッチだからじゃない?
G でも、閠ウ縺ョ荳ュ縺ォ逡ー蠖「縺後>繧九→縺?≧逋コ諠ウ縺後>縺?〒縺吶h縺ュ縲らァ?騾ク縺ァ縺吶?
A ネタばれ厳禁!

「記憶のカケラ」
B 余命宣告をうけている母親が娘のために残りの人生を強気に生きてゆこうと決意する話。
C「私」はその病気の症状として記憶に障害があるんですよね。そのせいで自分があとどれくらい生きられるのかも忘れている。
D この小説は「私」と娘とが「ブランデーケーキ」についてやりとりする午後のひとときを描くことで「私」だけが抱えるのではない記憶のはかなさにふれています。
E 記憶ははかないものだけど、だからこそその「カケラ」だけでも残るように人間関係を濃密にすることがだいじなんだなとおもいました。
F ひとは死んでもその記憶の中に生きられるはず。そのための「濃密さ」ってことね。
G ひとはだれでも死ぬけれど、その宿命を悲観するのではなく、死ぬまでを前向きに生きることで「私」は娘の記憶の中に断片的でもかまわないから生き続けようとつとめる。
A やがておとなになった娘は「ブランデーケーキ」を口に運ぶたびに母親を思い出すにちがいないですよね。
B まるで『失われた時を求めて』の「マドレーヌ」みたいね。

「お昼の給食」
C 小学5年生と3年生の息子をもつ母親が息子たちの会話をきっかけに給食を懐かしく思い出し、お昼にじぶんがすきだった給食を再現する話。
D 献立は「若鶏のマリネ」「ふわふわ卵のイタリアンスープ」「小松菜のサラダ」。どれもおいしそう。
E「幸子」が子どもころは学校に調理室があったという設定なんですよね。そんな時代もあったんですね。
F その献立を「幸子」が調理してゆくようすが克明に描かれてゆきます。
G 材料の分量が描けていれば完璧なレシピ小説ですよね。
A いまどきはレシピサイトやYouTubeなどで調理の手順が動画で紹介されていますけど、その小説版ですよね。
B オノマトペを一行書きにするくふうがいいと思いました。
C そうね。リズミカルな音がせまってきて臨場感がでているよね。
D 調理する「幸子」の高揚感も感じ取れるよね。できあがった「給食」を子どもにかえったようにおいしそうに食べる描写がとてもいい。おなかすきます。
E 日常のなかのささやかな非日常をへてふたたび日常(家事のつづき)にもどってゆく構成もよかった。

「幽霊城の籠り姫」
F 幽霊を見ることができる「エミリー」が幽霊屋敷に住み込んで幽霊の貴族令嬢「ソフィア」と仲良くなる話。
G 幽霊が骸骨という設定がおもしろい。というか、おもしろく読めちゃう。
A 全体的にゴシック・ロマンというよりは上品でコミカルなスラップスティックを描こうとしている気がします。
B ホラーじゃなくてサスペンスだよね。どうして彼らが幽霊として生きているのかとか、「百年の契約」とはなにかかとか、謎がたくさんちりばめられているもんね。
C すべてがうまく回収された長篇としての完全版をよみたくなります。
D「トルコ石の指輪」という小道具が神秘的な雰囲気をじょうずに演出していますね。
E 異国情緒というか異世界情緒というかがたくみに表現されているんだよね。

「ものがたり」
F 古本屋で「ある」古本をたどってゆくことで大学時代の先輩と後輩がめぐりあう話。
G 古本の個性的な「書き込み」が手がかりってところがドラマチックです。
A 本に感想とか書きこんじゃう人ってあまりいませんよね?
B わたしはするよ。おもいついてことをどんどんかいちゃう。
C じゃあ、あなたが「モデル」?
D 現実的かそうじゃないかじゃなく、その書き込みに後輩らしさがあって、むかしを懐かしんで惹かれてゆく心理がいいとおもう。
E 宝さがしめいていてわくわくするよね。「秘密の書籍」みたいでさ。
F まさにそれね。宝のありかを示しているのが持ち主の書き込みってところがロマンチック。
G 書物をめぐる書物の冒険だよね。

「彗星」
A 彗星を見るために高校の天文部の観察会に参加するふたりの高校一年生の話。
B とにかく高校生活がたのしそうにえがかれていていい。
C 男子も女子もいる共学校のリアルがある気がしました。描写も会話もとても自然でのめり込めます。
D とかく「文芸部」を舞台にしがちだけれど「天文部」にしているあたり心憎いですね。
E へんてこな恋愛関係ではなく、部活をたのしむまっとうな交友関係を描いているところに好感が持てます。
F ただ彗星がみたかったふたりの男子高校生がその体験をとおして、天文部員になるという展開がよくできていると思いました。
G「金木犀が甘く香る季節、放課後の西日が照らす教室に二人の影があった」という冒頭の一文がとてつもなくブンガク的です。
A「『天文部へようこそ』」という結びの一文が物語をとてもじょうずに締めくくっているよね。

「柳のところの幽霊さん」
B 自分にとりついた幽霊から逃れたい「栁」という少女とじつはその少女が大けがしないように監視している幽霊のすれ違いドラマ。
C 作者によるとアンジャッシュのすれ違いコントがヒントになっているそうで。
D 幽霊が自分の二の舞にならないように「柳」を見張っているのに、その幽霊を怖がっていてなんとか逃れようとする設定がおもしろいですよね。
E 幽霊が親切にすればするほど「柳」は恐怖のどん底に陥っちゃうわけですよね。
F だからといって幽霊が彼女を見捨てれば彼女は死んでしまうかもしれない。
G その組み立てをとてもじょうずに説明しているのがQ&Aの構造ですね。
A「私は、どうしたら助かりますか?」
B「何もしないでください」
C 絶妙な掛け合いですよね。

*「俳句」は太田高校文芸部との冬の合同句会のときにつくったもの、「短歌」は群馬県総合文化祭文芸部門の交流会のときにつくったものです。
*「受かれメロス」は予餞会の出し物を4コマ漫画風にアレンジしたものです。
*「りぶろういるす」は顧問創作のため割愛しました。