馬県高校生文学賞 散文部門(県高文連主催) 優秀賞 1名(2年生)
JOMO高校生小説(上毛新聞社主催) 最優秀賞 1名(2年生)
同 佳作 1名(1年生)
★令和5年度
群馬県高校生文学賞 散文部門(県高文連主催) 優秀賞 1名(3年生)
JOMO高校生小説(上毛新聞社主催) 佳作 1名(1年生)
★令和2年度
群馬県高校生文学賞 散文部門(県高文連主催) 優秀賞 1名(3年生)
JOMO高校生小説(上毛新聞社主催) 佳作 1名(1年生)
★令和元年度
JOMO高校生小説(上毛新聞社主催) 優秀賞 1名(2年生)
同 佳作 2名(2年生)
文芸部ブログ
文芸少女折下ふみかの華麗なる冒険 その32
◆文藝少女夏の一日◆
顧問のTセンセーから「連歌」をつくるという夏休みの課題がだされました。なんでもセンセーがたまたまみた「NHK短歌」という番組で連歌をつくるコーナーが紹介されていてそれにいたく感銘を受けたということらしいです。「連歌っていうのは短歌の上の句と下の句をそれぞれべつな人間が詠み継いでゆく文芸なんだけど、他人が紡いだことばのつらなりから刺激をうけたじぶんのことばをつなげてゆく行為がとてつもなく自由でたのしそうだったのよ」なるほど。とはいえ上の句、下の句と順番に詠みつないでゆくのでは時間がかかりすぎるということもあり、太女連歌の独自ルールをつくって作歌することにしました。
《太女連歌ルール》
①テーマは「文藝少女夏の一日」
②ポイントごとにコモンがあらかじめ句を詠んでおく
③部員の担当箇所を指定しておく
④指定された箇所から「一日」をイメージして好き勝手に詠む
こんな感じです。
ずいぶん乱暴な連歌ですが(はっきりいって連歌でもなんでもありませんが)、なんとか完成しました! わたしたちとしては大満足なんですけど、センセーのイメージとはじゃっかん食い違いがあるようで、「ううむ。写実的で説明的すぎて、あまり『詩的』な印象をうけないなぁ。短歌や俳句ではもっと大胆なことばつかいをめざしてみようよ」ってことでした。まあ、それはこれからの課題として、まずはできあがった私たちの連歌をご覧ください。文芸少女の夏の(アツい)一日が浮かびあがってきますよ。
朝 1 目覚ましはサティの曲と決めている コモン
2 暑い朝日と冷たい目覚め ラギ
3 顔洗う出てくる水はもはやお湯 銀平糖
4 意識はシャキリ腹の音がなる 幻想翡翠
5 朝食はたまごサンドと冷えたお茶 神樂坂
6 腹満たし今日の予定に思い馳せ みみず
7 進まぬ気苦手教科を取り出して ラギ
8 青チャを広げ机に突っ伏す 銀平糖
9 脳内で数字がタンゴ踊ってる 幻想翡翠
10 風で風鈴はらはら踊る 神樂坂
昼 11 空腹は忘れたころにやってきて コモン
12 扉開けどうせだからと外食を みみず
13 涼しげな風鈴とともに扉抜け ラギ
14 悩んだ末に定番メニュー 銀平糖
15 食べ終えてドアを開けたら青い空 幻想翡翠
16 日は強けれど風心地よく 神樂坂
夕 17 少しだけそう言い聞かせお散歩へ みみず
18 稲の揺らめく碧緑の中 ラギ
19 スーイスイあめんぼたんぼかわいいなぁ 銀平糖
20 夕闇の中星が輝く 幻想翡翠
21 音を立て煌めく空を纏う宵 神樂坂
22 美しき景色に見惚れ立ち止まり みみず
夜 23 「ごはんだよー」食卓の上に天の川 ラギ
24 母の天麩羅天昇る旨さ 銀平糖
25 風呂入り今日の疲れも吹き飛んだ 幻想翡翠
26 洋服選び明日を思う 神樂坂
27 何しよう思う時間は明日への投資 みみず
28 新しい明日新たなわたし コモン
文芸少女折下ふみかの華麗なる冒険 その31
ブラウスを着てリボンを結ぶ。靴下をはく。いつものことだが、なにかソワソワして落ち着かない。落ち着かないのにいつもより時間に余裕があって、入念に髪の毛を整える。昨日切りそろえた前髪がヘンじゃないか不安になる。きっとこんな気持ちになるのは今日が私にとって特別な日、「誕生日」だからなのだろう。そんなことを思い巡らしているうちに時間は着々と過ぎていき、気づけばいつもの時間になっていて、私は急いで家を飛び出した。
「誕生日」って言葉だけでワクワクする。古びたローファー、風で崩れた前髪、日光を反射させる腕時計、ありふれたいろんなものが私を幸せにさせるラッキーアイテムのようだ。
学校に着くころにはその気持ちは収まっていて、教室までの長い道のりを重たい荷物と葛藤しながら進む。誰かが祝ってくれるかなんてあまり考えないようにして、それでも、かなり期待している自分と、祝われなかった時のために期待をしないようにしている自分、全部受け止めて、なにも考えずに教室のドアを開け席に向かう。
日の光を浴びた艶のある髪を一つに結った私の友達と目が合い、挨拶を交わすと、「今日誕生日だったよね? おめでとー!」と優しい笑顔で私を祝ってくれた。うれしくてうれしくて、ありがとうと言った後もなかなか口角が下がらなかった。それを聞いていたクラスメイトたちも私の誕生日を祝ってくれ、期待していた気持ちがボロボロに打ち砕かれることなく朝が終わった。
眠たくなるような(先生方ゴメンナサイ!)数々の授業を乗り越え、待ちに待ったお昼の時間。腹をすかせた女子高生の食欲はピークを迎え、そそくさとお弁当を広げた。友達と他愛もない話をしながらご飯を食べているとき、なにやら少し高そうなお菓子をもらった。お菓子なんていくらあってもいいですからね、「誕生日」だからダイエットは明日から、ううん、後夜祭もしたいから明後日からで。消費カロリーより摂取カロリーが多くなってしまうのは仕方がないよ、女子高生の食欲を侮るなかれ。きっとそれは運命に近くて逆らえない誘惑だもん。午後の授業で眠くなることなど関係なしにそれを頬張る。きっとこれを人は「幸せ」と呼ぶんだよね。
私は私なりに「誕生日」を大満喫できたのでした。
文芸少女折下ふみかの華麗なる冒険 その30
9月。夜が段々と長くなっていく時期だ。そして、今はもう見る影もないが秋の始まりの季節でもある。ファストフード店で月見商品が売り出されるのもこの時期だ。余談だが、私はあまりこういった商品を食べない。食べられないわけではないが「限定商品」に踊らされたくないのである。それはさておき、秋の夜長と言えばやはり読書だろう。今回は最近読んだ本について紹介しようと思う。
その本の名前は『変身』である。『変身』はフランツ・カフカが1915年に発表した中編小説で、20世紀文学を代表する不朽の名作の一つである。カフカという名前を聞いて、真っ先に思い浮かべるのがこの作品だと思われる。
家族の生活を支えるために、真面目に働くセールスマンであるグレゴール・ザムザは、ある朝目覚めると巨大な毒虫に変身していることに気づく。変身したグレゴールは部屋に閉じこもるが、遅刻を心配した家族や、彼を問い詰める会社の支配人が部屋にやってくる。ようやく部屋の扉を開けたグレゴールを、家族や支配人は忌み嫌い、恐怖におののく。変身したことで仕事を失ったグレゴールは、収入の道を絶たれ、やがて家族からも厄介者として扱われるようになり……といった話だ。
私はこの小説を前々から読みたいと思っていて、あらすじはぼんやりと知っていた。偶然にも、新潮文庫が毎年発表している「高校生に読んで欲しい50冊」にノミネートされていたので実際に(ネットではなく!)本屋で購入し夏休みちゅうに読了した。
私の率直な感想は「家族ひどくね?」だ。いや、家族の気持ちも分からなくはない。ある朝起きると息子が虫になっていたなんて状況はおそらく一度も経験したことがないだろうし、虫になったグレゴールの特徴について書かれている文も読者がつい想像してしまうほどに細かく書かれているから相当気色の悪いものだったものだと思われる。だからとはいえ、急な手のひら返しには驚いた。しかもあとから分かることで、このザムザ一家、グレゴールが毎朝早く起きて必死に働いて家族を養っていたのだが、彼が変身した後に実は家族がグレゴールに内緒で暮らしていけるお金を貯金していたことが判明する。父にリンゴを投げられるわ、最愛の妹に”これ”呼ばわりされるわで、とにかくグレゴールが終始かわいそうなのである。
何故彼が虫になったかは作中では一切明かされない。伏線もなく、朝起きたら虫になっていた。その事実だけが淡々と書かれているだけなのである。とことんシュールな不条理小説なのである。
私はこのような文体の文章を初めて読んだ。物語内で起きている展開と、その展開を説明する文章とのギャップが大きくてどこか癖になる作品だと思った。『審判』や『城』といったほかのカフカ作品も読みたくなった。
『変身』は前述した通り中編小説なので比較的すぐに読み終わる作品だ。秋の夜長のお供にしてみてはどうだろうか。
文芸少女折下ふみかの華麗なる冒険 その29
私、折下ふみかは、オーストラリアでかなり勇敢だった。これはきちんと友達の保証付きである。
普段の私はというと、そこまで人と話すタイプではなく、どちらかというと対人関係においては消極的な人間である。そんな私のオーストラリアでの武勇伝(?)をお話しようと思う。
武勇伝①
私はホストファミリーたちが忙しそうにしていたとき、特にすることもなかったので、ペアの友達と近所を散歩に出かけた。15分くらい歩いた先に、ドックランを見つけた。そこでは、5、6人の人たちが自分たちの犬を連れておしゃべりをしていた。普段の私だったらそのままスルーしてその場を通り過ぎるのだが、そのときの私はオーストラリア・モードだった。「私は人とコミュニケーションするためにオーストラリアに来たのだ」というスウィッチがはいり、勇気を振り絞って柵の10メートルぐらい先にいる人たちに向かってとても大きな声で言ったのだ(私としてはそれはそれは大きな叫びだった)。
「Can we enter here , please?」
「Sure.」
彼らはとても朗らかに答えてくれた。私はとてもほっとしたのを覚えている。誘われるまままにドッグランに入ると、大人たちの中にひとり金髪の可愛い女の子が裸足で犬と遊んでいた。私たちも彼女と一緒に犬と少し遊ばせてもらった。その時、私は再び勇気を振り絞って、その女の子に話しかけた。
「Hello. How are you?」
それをきっかけに、彼女とは会話がはずみ、その子が12歳だとわかった。「え、この子私より年下なの?」内心結構びっくりした。確かに犬と戯れている姿はわんぱくではあるが、大人っぽい顔立ちであったので、私と同じかそれより上くらいであると思っていたのだ。
帰り際そこにいた人たちに
「See you later.」
と言われたが、私はその日の翌日には帰国することになっていた。もう、この人たちとは会えないかもしれないと思うと、少し悲しかったが、楽しい時間が過ごせて良かったと思った。
武勇伝②
私はそのとき、ホスト・シスターのテニスの練習を見に来ていた。ファザーとマザーは私たちをくるまから下して、別の用をしていたので、私はペアの子とふたりでテニスの練習を見ていた。少しして、新聞を持ったおじいさんが少し離れた椅子に座った。シスターの練習はまだ長そうだったので、またもや私は日本では出せない勇気を奮い起してその人に話しかけることにした。
「How are you?」
おじいさんに言った。話していくと、おじいさんは孫の練習を見に来ていたらしい。おじいさんはアメリカの出身で、50年前にオーストラリアに来て、そのままずっとオーストラリアにいるそうだ。私たちが日本から来ました、というと「孫の学校のクラスにも日本人がふたりもいるよ。それに、孫は今日本語を学校で少し学んでいるんだ」と教えてくれた。ここオーストラリアのケアンズでは日本人の観光客を多く見かけるが、住んでいる人も多いのだなと思った。加えて、日本語が日本以外で使われているのがなんだか嬉しく感じた。
どうですか。なかなかやるでしょ、私。勇気をもったひと言が一期一会をもたらす、というお話でした。
文芸少女折下ふみかの華麗なる冒険 その28
今年度のメンバー全員が揃った状態での、最初で最後の部誌『せせらぎ』189号が先日発行されました。ほんらいなら「創作余話」というカタチで本誌に載せたかった、作者の作品への思い入れやこだわりを集めました。みんなそれぞれにさまざまな視点や発想で創作しているんだなぁと改めてつくづく思い知らされます。合評の記事と合わせてお読みくださいませ。
なお、ネタバレを含む可能性もありますので、本誌をお読みいただいてからの閲覧をお勧めします。
『ずっと、大好きだから』銀平糖
この話を書いているとき、子供の視点で書くのは初めてだったので、新鮮な感じがしました。悲しいことがあっても、前向きに生きていこうとする子供がもつ明るさや前向きさを表現しました。
『神様になった少年の話』ラギ
大好きな先輩方の引退号となる、ということで、現在の自分に出せる全力を尽くして最高のものを書こうと密かに決めていました。花言葉や色の表現など、とことんこだわりました。とある推しの二次創作から着想を得たネタの、ifのifを出す予定で書いていましたが、途中で書けなくなってしまうハプニング(いつものこと)が起こってしまい、急遽予定を変更してifの話を書き上げました。想定外だったのは、登場人物が語り手の一人を除き、全員元ネタの人にそっくりになってしまったことです。元ネタがいる分、いつもよりキャラがしっかり定まったと思っていたんですが…ちょっと個性が強すぎたようです。もう一つは、一人が視点&語り役に徹した結果、名前くらいしかわからない謎の人物になってしまったことです。自分は気に入ったんですが、元ネタの人が口調にしか残っていないという…結果的には視点専用のキャラクター、という新たな試みとなりましたが。
補足:人名にふりがなを振ったんですが、一人抜けていました。「八朔日」は「ほずみ」と読みます。
『返事のない星』神樂坂
今回の小説が部誌に載る一作品目となる、肝心ですがどんなものがいいのか分からず書き始めました。今回の自分のテーマの「生きること」と「変化」を中心に、自分の経験したことのない遠距離の二人の関係を書きました。ぎこちない文になっていると思いますが、様々な視点から読んで楽しんでいただけると幸いです。
『身代わり姫と傀儡王』阿野二枡
引退作となりますので、執筆中はこれまでよりも背筋の伸びる思いでした。登場人物の名前や地の文の言葉に、読む方によっては実在の人物や舞台作品を連想させるものがあるかもしれませんが、色々な資料のごった煮から考えたので、特定の一作品・一史実の二次創作ではありません。主人公たちには、時代や運命に翻弄されながらも与えられた役割の中で懸命に生き、最後は幸せを掴んで報われてほしいと思いながら書きました。ヴィッツェルはヴィッテルスバッハ(バイエルンの名門貴族)、シエルージュはフランス語のCiel(「空」から「青」を連想して)+Rouge(赤)から採ったほか、普通に読んでも差し支えないものの、分かると少し面白いかもしれない言葉遊びが散りばめてあります。
『愛しい悪夢の中で』あきつさ
部活を引退するにあたって部誌に載せる最後の作品となるので、自分の好きな要素、書きたいこと、全部詰め込みました! 過去に囚われてしまう主人公は、きっと他人事ではないと思っています。苦しい中でも救いとなるような友人と出会えたら、それは一生物の宝だと思います。以下、入れようとしたけれど登場人物に却下されたセリフ。
(笑い声が響き渡る夢の中で)
「今ここで一発芸したらさ、どれだけつまんなくても大ウケしてるみたいだよね」
「……絶対にやめてね」
『思い出のお城』銀平糖
私が市の図書館で勉強していたとき、おじいさんが司書さんに「アメリカの地図を出してほしい。ハーストキャッスルを探したいんだ」と言っていたのが、この物語を書き始めたきっかけです。(←決して会話を盗み聞きしようと思ったのではなく、おじいさんの声が響いていたので、自然と耳に入ったんです)作者としては、読んでくれた方が少しでも楽しい気持ちになってくれたら、と思っています。
『おかえり』幻想翡翠
このせせらぎに初めて小説を載せるにあたって、活動場所であるコンピュータ室から見えた山から着想を得ました。とにかく神経質で、近寄りがたいけれど「静寂」という彼女には人一倍愛を注ぐ、どこか歪な彼の独白をどうぞ見守って頂けると幸いです。
『一蓮托生』みみず
部誌「せせらぎ」に初参加の私。今回の部誌でスタートダッシュがどう切れるかが、創作活動への自信やこれからの活動のモチベーションになる……そう考え、思い切って自らの好きを曝け出すことに決めました。とある高校生二人が抱える、懺悔と希望、そして歪な形の愛とそんな二人の結末とを、是非最後まで見守ってくれたらと思っています。
◆顧問からひとこと◆
毎度のことながら部員ひとりひとりの創作意欲に圧倒されます。高校生のわたしにこれほどの小説はかけなった(なにしろ処女作は大学1年生のときかいた400字詰め原稿用紙5枚の作品ですから)。表現力も構想力も素晴らしいものがあります。よみごたえじゅうぶんです。それぞれにスタイルをもちあわせていて(もちろんそれが個々人でも多様なんですが)次回作への期待を抱かせてくれます。せっかくなので個別に(「おとな」の立場から)助言らしきものをかいてみます。「阿野二枡」氏のかく作品のタイプはそもそも分量を要求します。丁寧に物語をつみあげて緻密にねりあげてゆけばもっともっと素晴らしい作品を生み出せるでしょう。「あきつさ」氏はある意味ダークファンタジーめいたものを確立しています。それをもっと大きな物語にできるとおもしろいですね。わたしは短篇しかかけないんですけどあなたには長篇を期待したいってことです。「ラギ」氏はおそらくあふれるものがおおすぎて自分で制御できていない状態だとおもいます。かくまえにプロットを練りあげる必要がある。発想はよいのでそれを生かしましょう。「銀平糖」氏は身辺雑記的なんだけれどそこにちょっと日常を逸脱したウイットめいたものが見え隠れする作品をかきます。「ずっと好きだから」はぼかしすぎましたかね。図書館でのエピソードから「思い出のお城」にいたる脳内変換はだれにもまねできません。ほとんど体験談じゃないのに展開の自然さがすばらしいです。1年生は(ごめんなさい、ひとまとめにします)はじめてとはおもえない力作ぞろいです。でもやはりはじめてなりに共通した「はじめて」らしさに満ちています。それは観念的な作品になりすぎているってところです。モチーフが心情的なものであり、そのことだけをぐいぐい押してくる傾向がつよい。作品の中心はそれでいいんですけど、それをもっと物語でおおいかくす工夫があるといい(と、わたしはおもいます)。次回作は展開にこだわってみましょう。
文芸少女折下ふみかの華麗なる冒険 その27
7月24日木曜日に太田高校文芸部との読書会の後、句会を開きました。
今回は通年通りに各自の俳句に投票してその得票数を競う形で行われました。俳句のテーマは「天」で、なかなか難しいテーマだと思ったのですが、顧問の先生含めその場にいた全員がおもいおもいに俳句を作っていました。
一人あたり二〜三句作り、作者名を伏せた状態でそれぞれの句を見て、各々がいいなと思った句に投票しました。王道のスタイルを貫いている句や意外性のあるユーモアな句まで様々な句ができました。
さて、一番票が集まったのは……!?
「銀世界交わり溶ける曇り空」
なんと我が太女の一年生の句でした! いやあ、素晴らしい。めでたいですね。
途中で時間が押してしまい、全員が句の説明をすることは出来ませんでしたが、とても有意義な時間になりました。太田高校文芸部の皆様、このような会を開いて下さり本当にありがとうございました!
冬休みには太女でお待ちしています。
《参加者の俳句》
笹の葉や流るる星の絶えず春 白い雲夏の訪れまた一つ
水鏡天を泳ぐは花筏 冬の陽の沈む早さやまた明日
稍寒や離れつつある背と高さ 風見えて夕立見上げ雷を
天翔る暗夜の遠く夜這い星 天井のシミを数える冬の暮
凧揚げの映ゆる休日天晴や イカ天の余韻丸めて飯を食む
映えるかなキラリ瞬き雲の峰 水田の早苗と踊る夏空よ
銀世界交わり溶ける曇り空 田園の水鏡に立つ雲の峰
雲間から零れる光光芒よ 瞳見てハッと気付いた青い夏
始皇帝ギャグで冷やし中華統一 朝顔は夕立時も天を向く
夕立は天の神様の腹の音 天泣の雲の上には宝石箱
夏夕に手を掲げれば天叢雲 天神にほおった銭を惜しむ春
天然の氷をうたう俗な店 天高く澄んでも低く老人星
赤日を馳せては仰ぐ星月夜 燦燦と花と会話の咲く春日
桜かな終始祝われ君は行く 天日干し梅を転がす祖母の背に
ふと転び意識は既に天の上
文芸少女折下ふみかの華麗なる冒険 その26
7月24日木曜日、午後1時30分から、ご近所の太田高校で合同の読書会と句会が開催されました。毎年の恒例行事です。わたしたちは午後1時10分に太女のロータリーに集合。炎天下のアスファルト道を日傘をひろげ優雅に太田高校まであるきました。いや暑かったです。それにしても「交流会」っていいですよね。いろんなひとのいろんな意見を聞くことができて大変勉強になりますし、なにより「たのしい」! 今年は5月に大光院まで散歩してからの句会をひらいたので、お会いするのは二度目になります。太女は三年生が引退していますが、太田高校文芸部は三年生の部員もわたしたちを出迎えてくれました。
さて、まずは読書会の報告です。今回のテキストは、芥川龍之介の「アグニの神」です。舞台は上海の町で、日本領事の娘である妙子が恐ろしい印度人のお婆さんに攫われてしまっています。お婆さんは占い師なのですが、印度のアグニの神の言葉を聞くことで、占ったことの答えを知るのです。そこで、アグニの神は正体がないからなのか、妙子がお婆さんの儀式によって一時的に眠らされ、アグニの神の器みたいなのをやることで、妙子の口からアグニの神がしゃべり、お婆さんは答えを知ります。そこにある日、日本領事に仕える書生の遠藤が妙子を助けにやってきます。
ここから話が展開していくのですが、長くなってしまうので内容はここまでにします。
みんなの感想としては
「現実的でない」
「さすが芥川さん。裏の裏をいってくる」
「遠藤とお婆さんとの戦闘シーンの表現いい」
などがありました。感想を聞くのもとても楽しかったです。
少し、私の思ったことを書きます。読書会のとき、「お婆さんは妙子のことをいじめているのに妙子のことを『恵蓮』なんて可愛らしい名前で呼ぶなあ」って思ったんです。そこで調べてみたのですが、インド神であるアグニはブラフマーという神が創った蓮華から誕生した説があるらしいです。だから「恵蓮」に「蓮」の文字が入っているのかなと思いました。
このお話は児童向けのお話らしく(大正時代の児童ですが)、私自身、昔の本であるのにとても読みやすく感じました。普段、芥川龍之介の本を読まないという人も、このお話はサクッと読めるので、是非読んでみてください。
では、「句会」の顚末につづきます。
文芸少女折下ふみかの華麗なる冒険 その25
7月23日水曜日、夏季前期課外がおわった酷暑の午後、学校の図書館に集まって、「せせらぎ」189号の合評会を行いました。
今回は、一年生にとって初めての「せせらぎ」でした。ですが一年生は臆することなく、自らの作品作りに真剣に向き合い、自分の思いを込めた個性ある物語を形成していました。二、三年生の作品は表現や登場人物の設定に深みがあり、一年生はその作品を見て先輩との差に焦る気持ちや、数年後にそんな深みと工夫の込められた文を作り上げられるようになりたいという憧れを感じることになりました。
合評会は共感や賞賛の声が行き交い、とても良い雰囲気で行うことが出来ました。また、その中にはアドバイスも多く、気軽にアドバイスをし合える所で、この文芸部の仲の良さや信頼を感じることも出来ました。
やはり「せせらぎ」を発行するだけではなく、合評会を開き文章の真意や工夫を共有し合うことで、お互いを高め合うことや仲を深めることに繋がり、よりよい作品作りをすることが出来るのだなと感じました。次回の「せせらぎ」発行時も、このような有意義な時間を過ごせたらと思っています。また、今回の合評会で学んだことを文章に活かせたら良いなとも考えています。
以下にしるすのは、作者のこだわりや作品の感想をまとめたものです。ネタバレの塊なので、まずは「せせらぎ」189号に目をとおしてからこちらお読みくださいませ。なお「せせらぎ」189号は「文芸少女折下ふみかの華麗なる冒険その23」に掲載されています。
「ずっと、大好きだから」
主人公は学校にもまだ通っていない小さな女の子。子どもから見た家族の様子は難しくて、ママの入院のこともお葬式のこともよくわかっていないけれど、それでも新しい母親がママではないことがわかっている、そんな話。
「神様になった少年の話」
主人公は、神様になった少年とかつての友人たちをひとつにつなげる役割を持って物語を回しているんだ。登場人物の選んだお供え物の花の花言葉にまでこだわりがあって、カタクリは「寂しさに耐える」、黄色の水仙は「私のもとに帰って」、ハナニラは「悲しい別れ」、ネリネは「また会う日を楽しみに」、白百合は死者への捧げ物。未来への希望はあるけれど、すこし悲しい話。
「返事のない星」
ヒト、ニンゲン、とカタカナを使うことで主人公の人見知りな性格を表現している。たくさんの食べ物の描写をいれることで、食べることは生きることだから主人公たちが生きていることを表している。季節を表す表現を多く取り入れて、読者が主人公たちの感じる感覚を共有できるようになっている。
「身代わり姫と傀儡王」
史実をもとに考えた作品。史実ではすべてが悲劇に終わってしまったから、幸せな物語として書き上げた。登場する二つの国の元ネタの国に合わせた言語ベースで名付けていたり、長めの話だけれど内容を短く章ごとに区切っていて読みやすかったりと、中世ヨーロッパの雰囲気を楽しみやすい作品。
「愛しい悪夢の中で」
主人公は過去のトラウマから眠るたびに悪夢を見ている。そんな彼女が友人と夢の中でも会い、ほんの少しだけ悪夢を恐れなくなる話。人は誰しも多かれ少なかれ心に傷があって、他の人に傷を晒したりはしないが、それでも気づいてくれる友人との出会いが救いになる。
「思い出のお城」
昔に見た白いお城をもう一度見てみたいというおじいさんと、いったいどのお城のことなんだろうと考えるおばあさんの話。歳をとっても仲が良く、孫たちとも一緒に映画を見るような関係を築けていて、とてもほのぼのとした世界が形作られている。
「おかえり」
なによりも静寂を愛する主人公が、むかし美術館や図書館で会った「彼女」を探し求めてひとり山を登る物語。騒がしいことが嫌いな主人公が耳を澄ませてでも必死に「彼女」を探す姿勢には彼の執着とも言える愛が見える。彼が愛したのは「静寂そのもの」だった。
「一蓮托生」
一蓮托生は、もとは仏教用語で「死後に極楽浄土に生まれ変わったときに同じ蓮の葉の上に生まれ変わること」。転じて良いことも悪いことも運命をともにすること。最期に二人が進んでいった夜の海は、生き残ろうと足掻けば助かることだってできた場所。それでも進んでいった二人の覚悟と、互いへの愛情が表されている。
文芸少女折下ふみかの華麗なる冒険 その24
◆『身代わり姫と傀儡王』番外編◆
せせらぎ189号掲載『身代わり姫と傀儡王』の、公爵が主人公に身代わりの許可を出す場面と、ヴィッツェル王家の行く末です。ネタバレだらけなので、本編をお読みでない方は、ぜひ部誌のデジタル版を先にご覧ください。
〈身代わり姫が身代わり姫になるまで〉
朝の身支度が終わるなり、エリーシアは私の手を引くと邸の客室に飛び込んだ。そこには準備の最後の仕上げのために一家全員が揃っており、「遅かったじゃないの」と眉を下げる母親に向かって彼女は叫んだのだ。
「わたくし、どうしても向こうで穏便にやっていける気がいたしませんの。アンヌに行ってもらうことはできませんか!」と。
時が止まった。凍りついた空気の中でエリーシアの母が初めに口を開き、
「あなた、この期に及んで何を――」
と云いかけたが、公爵はそれを手で制するなり、私をきっと睨めつけた。
「……ふむ、よかろう」
失神しそうになって私に抱き留められる公爵夫人(このとき私は頭が真っ白になっても身体は咄嗟に動かせることを学んだ)、両手をつなぎ合って喜びの余りくるくる踊り始める姉妹、再び私を穴があくほど睨んでから「よし」と呟いて部屋から出ていく公爵。すべてがめちゃくちゃだ。どこが「よし」なのか。何もよくない。
〈後日譚・史記は語る(八章相当)〉
『ヴィッツェル王国史』第二十一章は、次のような文言で始まっている。
「第二十一代国王・フリーデリケ一世。王国史上初の女王にして、革命の動乱を鎮めながら王政の瓦解をも防いだ賢君。即位の十六年前に勃発した革命から身を守るためシエルージュに亡命、現地で培った語学力と文化への理解は優れた外交の手腕として発揮された」
だが、その「亡命」の終わりがこんな身代わり結婚劇だったことを知る者は、今やシエルージュのシャンデル公爵家と、我がヴィッツェル王家に連なる者だけだろう。
フリーデリケは七十二歳で天に召されるまで、公私に渡って国のために尽くし続けた女王だった。宰相家の横領と謀反の証拠をしっかり押さえて取り潰し、王政を取り戻し、その権力を濫用することなく民のことを第一に考えて行動した。没後、王位は長年支え合った王弟ルドルフに再び渡るはずだったが、祖父はこれを辞退し、彼とエリーシア妃との間に生まれた長女フリーデリケが戴冠式に臨んだ。それももう、三十年近くも前のこと。今日の新年祝賀会では、そのフリーデリケ二世が年内の譲位を宣言する。次に王冠を戴くのは彼女の長男……自分だ。
「大伯母上、貴女が愛し守り抜いた国を、無事に次の世代へ繋ぐことを誓います」
軽やかなワルツが流れる宮殿――グルーフト(独語で「納骨堂」)城は偉大な姉弟の功績を讃えフリーデルフ城と改名された――の大広間で、誰にも聞かれないよう声を抑え、かの女王の肖像画を見つめながら呟いた。〈終〉