文芸少女折下ふみかの華麗なる冒険 その49
気がつけば、新学期を迎えてからもう一か月が経つ。天を仰げば、色とりどりの大きなこいのぼりが列をなして青空を悠々と泳いでいて、手を広げれば、ほんの少しの湿気を帯びた風が私の体をやさしく撫でてゆく。五月最初の休日は、まだ浮足経ってしまうような陽気に包まれていた。
もうゴールデンウィークがはじまっているというのに、この六日間の予定は何ひとつもたっていない。少し気が早いが、今後外出する予定のない私はスーパーで一パック四つ入りの柏餅を買って家に向かった。誰かとシェアをする前提で作られた賞味期限の短い、甘ったるくて不意に食べたくなる代物。たくさん出された課題を消化しなければならないのに、右手には白くて甘い誘惑。最終日に泣きそうになりながら課題を必死こいて片付ける姿が容易に想像できてしまい、家族が帰ってくるまでは、と思いそれを冷蔵庫の一番上の段にしまい込んだ。
なかなか集中力は続かず、去年の修学旅行で購入したシャーペンをくるくると無意味に回し、ノートの隅をトントンとノックした。ややあって、しびれを切らした私は模範解答を真っ白な解答用紙に赤色で書き連ねた。つぶれた赤い文字を解答用紙いっぱいに書き連ねた。ふぅ、とため息を吐いたのと同時にスマホの通知音が一人きりの部屋に鳴り響いた。「もうすぐ家に着くよ」
そのメッセージを見た途端、忘れかけていた存在が頭に浮かんできた。大きく伸びをした後に、しびれた足をたたきながら冷蔵庫へつま先を向けた。独特な冷蔵庫のにおいを吸って、一番上の段の棚に手を伸ばした。少し冷えたパックが熱くなった体をだんだんと冷まして、足先から脳天まですっきりしていく感覚。大事に抱え、ダイニングテーブルに置き、パックを開ける。柏の香りが鼻の奥にスッと抜けていく感覚が心地よくて勉強でこわばったからだがゆっくりとほどけてゆく。もちもちとした触感と程よいあんこの甘さがクセになり、一口また一口と手が止まらなくなる。あっという間に手の中からなくなった柏餅を思うとなんだか口がさみしくなり、もう一つ柏餅を手に取り食べ始めた。母と父の分を残しておけばきっと大丈夫、そんなことを思い食べ進めた。網戸を通り抜けて優しく私を包む風のせいか、残りの二つを気づいたら食べ終えていた。
満足し、ややあって車のエンジンの音が家に響き、手元にあった空になったパックをばれないようにごみ箱の奥に捨てた。