文芸少女折下ふみかの華麗なる冒険 その52

 

6月である。
私、折下ふみかには、とても深刻な悩みがある。それは、本日の太田女子高の生徒にとって共通の悩みだと思う。
「〇〇高校、休校になったって!」
「うわあ、いいなぁ」
「なんで太女は休校にならないのかなぁ」
そう、その悩みとは、台風の接近にもかかわらず休校にならなさそうなことである。
この時期には珍しい台風の接近。私にとって、その意味はたった一つ。
……学校が休みになるかもしれない!
いや、「かもしれない」ではない。きっとなるはずだ。うん、そう信じよう。
台風の影響による被害が大きいのは良くない。でも、あまりに弱い雨だと休校にはならないだろう。だから、台風には休校になるギリギリを攻めてもらいたい。

帰りのホームルームで、先生が言った。
「明日は台風接近の危険があるので、早朝課外がなくなりました。」
「わぁぁぁ! やったー!」
盛り上がる教室の隅で、私は一人思っていた。
……私、課外とってないから、関係ない!

そうだ! 明日の天気を調べよう!
ホームルーム後にスマホを取り出して天気を調べるも、出てくるのは無情にも曇りマークだ。無表情でリロードするも、当たり前だが結果は変わらない。
心の中でため息をつき、スマホをしまう。
まあ、明日になったら、きっと土砂降りで強い風が吹いているはずだ!

その「明日」になった。
起きて早々窓から外の様子を見るが、なんか、思っていたのと違う。
……なんでこんなに弱い雨なの?
いや、もちろん、台風の影響が小さいことは、良いことだ。台風の被害が小さいほうがいいに決まっている。私の母も、雨の日は「洗濯物が乾かない」と怒っているし。
でも、でも……。期待していた。期待していたからこそ、この結果はなんとも悲しい。私の日ごろの行いが悪いから、期待した結果にならなかったのかな。 ……自覚がある。むしろ、自覚しかない。そもそも休校になるように願っている時点で行いが悪い。
……いや、希望を捨てちゃダメ! まだ休校の可能性はあるよね。

スマホを片手に朝ご飯を食べる。もちろん、スマホを見ながらご飯を食べるような、良くない行為をするためではない。学校からの休校の連絡を待つためである。
……こないなぁ。
ご飯を食べ終わる。
………こないなぁ。
学校に行く準備が終わる。
…………こないなぁ。

しょうがない、学校に行こう。

雨のせいか、風のせいか、はたまた気持ちのせいか、一歩が重い。
「おはよ!」
「わっ!」
急に話しかけられ、びっくりする。
「そんなに驚かないでよ。」
「あっ、なんだ、栞ちゃんかー。」
この、「なんだとは何よ」とプリプリ怒っている女の子は私の友達の栞ちゃんだ。
「休校にならなかったね。」
「期待していたのになぁ。」
「しかも△△高校も休校らしいよ。」
「うわあ、いいなー。」
栞ちゃんと仲良く学校に行く。どんよりしていた気持ちはいつしかなくなっていた。
なんだかんだ言って、こういう会話が楽しいのだ。休校になるよりも、学校に行って友達と他愛もない会話をするほうが楽しいと思う。
気づいたころには、もう雨は降っていなかった。