カテゴリ:文芸部
文芸少女折下ふみかの華麗なる冒険 その62
まずい、全然テスト勉強が進んでいません。どうも皆さんこんにちは、折下ふみかです。もうすぐテストなのに全然勉強ができていません。最近インフルエンザにかかり一週間程学校にいけなかったので勉強が少しピンチです。課題もまだまだありますし、友達に休んでいた分のノートも写させてもらわなければいけません。なんで、もっと早くから課題に取り組まなかったのでしょう。私は昔から計画性がなく直そうと思ってもうまくいかず高校生になってしまいました。でもそんな私にも心に決めていることがあります。それはしっかり課題を提出することです。提出しないと私のプライドというのでしょうか私の心の中の何かが許さないのです。でも、課題のことばかり考えていると気がめいり逆に集中できなくなってしまうので楽しかったことを思い浮かべようと思います。
ご存じの方もいらっしゃるかもしれませんが先日、太田女子高校の学校公開がありました。私が所属している文芸部もたくさんの方に来ていただき喜ばしい限りでした。文芸部が作っている冊子「せせらぎ」も予想よりも多くの方に受け取ってもらい、数が足りなくなる程でした。部活動見学の際は中学三年生とお話をしたり、中学三年生を待っている間も黒板を使って絵を描いたりすることができて楽しい一日を過ごすことができました。中学三年生はすごく可愛くてしっかりしていてすごいなとお話をしていて思いました。私は中学校時代あまり後輩と関わらない部活動に所属していたので、年下の方と話すのに慣れておらず圧をかけていなかったか心配ですが何事も経験だと思うので次に年下の方と関わる機会があったら、今回の反省を生かして対応できるようにしたいです。私はこれからテスト勉強をしなければならないのでここでお暇させていただきます。私もテスト勉強をがんばるので皆さんも勉強がんばってください(中間テストは10/7からです! 時間足らないよー!)。
文芸少女折下ふみかの華麗なる冒険 その61
「折下先輩、これはどこに置けばいいのですか?」
ふみかが後ろを振りかえると、図書委員の後輩である小栗安奈が十冊くらいの本を抱えて立っていた。
「それらの本はここからまっすぐに行って、右の角にある本棚に置いてちょうだい」
「わかりました。ありがとうございます」
安奈はそういうと、すばやく本棚の蔭に消えた。折下ふみかと小栗安奈は図書館の蔵書整理を手伝っていた。ふみかのもとに戻り、別な書棚から書籍を取り出す作業を手伝いながら安奈がつぶやく。
「折下先輩、そういえば最近は図書館に来る人が少ないですね」
「文化祭も近いし、みんなは精一杯準備をしているから仕方ないよ」
ふみかはテーブルのうえに山積みにされた本のバーコードをバーコードリーダーで一冊ずつ読みこんで、本の山を崩しては積みあげてゆく。安奈はバーコードのチェックがすんだ書物を書棚にもどす作業をつづける。
「そういえば、杏奈ちゃん、あなたたちのクラス企画は順調に話がすすんでるの?」
杏奈は本の山から目を離し、ふみかを見る。
「まだ何にするのかを話し合っている途中で、具体的に何をするかは」
せっせとバーコードを読み取っていた手をとめてふみかは、不思議そうに安奈をみあげる。
「あれ? 太田焼そばの歴史を調べて、究極の太田焼きそばを作るっていう企画じゃなかったっけ?」
「ええ、最初はそうだったんですけど、『太田焼そば』のコンセプトのことで喧嘩になっちゃいまして」
杏奈は頭に手を置きながら苦笑いした。
「みんなは、太麺か細麺か、ソースは辛いのか甘いのか、そもそも究極というからには麺やソースを手作りにしないと意味ないんじゃないかとか、喧喧囂囂、侃侃諤諤、どうにもこうにもまとまりそうもなくなちゃって。とりあえず、また次のロングホームルームでもう一回話し合うことになってます」
「そうなんだ」
ふみかは頷く。
「杏奈ちゃんはやはりすごいよね。そんなカオスめいた状況でもあきらめずにクラスのみんなが議論し合えるように調整しようとするなんてさ」
「いえいえ、そんなことありません」
ふみかの言葉で、杏奈は慌てて頭を横に振る。
「私は、まだリーダーとしては不甲斐ないです」
そんなことないよ。だって、杏奈ちゃんが何度も先生から褒められるところを見たから。ふみかはそれらの言葉をのどもとでおしとどめ、そのまま黙り込んだ。
「私のクラスの出し物も実はまだ決まっていないんだ」
杏奈は彼女の言葉で驚いたように聞き返す。
「折下先輩のクラスが、ですか?」
「そうだよ」
正確には、ふみか自身もよく状況がわからなかった。最近では部活の原稿の提出に追われて、文化祭に関わる話し合いのことを頭から締め出していたのだ。ううむ。これじゃいかんな。クラスのメンバー失格だ。杏奈のような責任を持っている、まじめな頑張り屋さんになれたらな。ふみかはそっと心の中でつぶやいた。
文芸少女折下ふみかの華麗なる冒険 その59
◆合同読書会&句会の報告◆
2026年8月18日火曜日、午後1時30分から、太田高校図書室にて毎年恒例の読書会&句会が催されました。その日も太陽が照りつける酷暑でありましたが、わたしたち太女文芸部員はアスファルトの照り返しをものともせず、意気揚揚と太田高校までの道のりを歩いたのでした。太田高校文芸部員による、ご丁寧な出迎えを受けまして、わたしたちは校舎3階の図書室に到着したのでした。
第一部 読書会
テキストは村上春樹の「カンガルー日和」(村上春樹は『風の歌を聴け』で1979年に文壇に登場。「カンガルー日和」は『1973年のピンボール』(1980)と『羊をめぐる冒険』(1982)のはざま、1981年に『トレフル』という雑誌に掲載された初期の短篇。今回のテキストは初出作品に大幅な加筆が施された『村上春樹全作品』所収のもの)です。動物園のカンガルーが赤ん坊を産んだということを新聞の地方版で知った男女ふたりが、カンガルーの赤ん坊を見物するのに相応しい朝を待ち受けてひと月を無意味にやり過ごし(それが人生)、ようやく巡り来たカンガルー日和に勇んで動物園に出かけたものの、カンガルーの赤ん坊は赤ん坊らしくなく成長していて、なんとかその赤ん坊が母親らしいカンガルーの袋に収まるようすを見られてよかった(?)、というのがあらすじです。わたしは村上春樹の「僕」によるいろんな「決めつけ」が気になりました。ひじょうに訳知り顔なのです(たとえば「女というのは実にいろんな可能性を思いつくものだ」とか「これまで女の子と議論して勝ったことなんて一度もないのだ」とか)。「僕」が「女の子」全般をさもわかったような口ぶりなのです。私ならこんな「偉そうな」男の子のことは好きになれませんね。「カンガルー日和」がぜんぜん「カンガルー日和」じゃなかったという皮肉を描くことがテーマだとして、それが人生(繰り返しでてくる)だとして、それをなんとなくおしゃれな文体でなんとなくおしゃれな男女ふたりの物語として「僕」がしゃべっているのが「カンガルー日和」なのでは? というのがわたしの感想です。わたしは一人称で書くということの腹のくくりかたを学びました。一人称で書くということは「僕/私」の視点を逃れられないということです。語り手の個性が作品の価値になります。じぶんの感受性「だけ」にたよるには相当の覚悟が必要ですね。
第二部 句会
太田高校文芸部は句会を中心に活動しているということもあり読書会のあとに句会が催されました。お題は「まつ」。今年は5月の金山ハイキングのときにみんなで俳句を詠んでいるので、多少敷居は低くなりましたが、太女文芸部では小説を書くことが活動の主流なので、一句ひねるだけでもかなり手こずらされました。できあがった俳句をみんなで鑑賞し、よいとおもった作品に投票します。その結果が以下のとおりです(数字は得票数です)。太女生はひとり一句つくるのが精いっぱい。太高生は二句も三句も詠んでいて、さすがのひとことです。それでも太女生の作品が上位に支持されました。面目躍如ですね。わたしがなんとかひねり出したのは「夏祭マツモトキヨシで待ち合わせ」です。なさけねー。
12 待ちぼうけ釣り糸垂らし汗垂らし(太田)
11 幾年も待つ君に吹くあいの風(太女)
10 アスファルト香り薫ればまつりかな(太田)
10 西日さす松の青さが夏惜しむ(太女)
7 松かさを焚火にくべて芋を焼き(太田)
7 浴衣着て待つ影遠く走りだす(太女)
6 手には触れて影を待たずに日傘差す(太田)
5 末枯れや寂しくなった通学路(太田)
5 冬木立手を擦りながら君を待つ(太田)
5 雲払え窓から望む望月(太田)
5 歳末に松の木の下で待つマッチョ(太田)
4 降り注ぐ初音を待った花々に(太田)
3 Yシャツをパタパタさせて秋を待つ(太田)
3 親の帰宅茉莉花茶飲みぽつり待つ(太女)
3 待ち侘びて休載宣言告知の今日この頃(太女)
2 マツコ・デラックスしゃべれぬ日かな(太田)
1 朝三時星空の下トイレ待つ(太田)
0 幸福に包まれながら松納め(太田)
0 夏祭マツモトキヨシで待ち合わせ(ふみか)
私のお気に入りは「マツコ・デラックスしゃべれぬ日かな」と「親の帰宅茉莉花茶飲みぽつり待つ」です。「まつ」をマツコや茉莉花茶につかったりするセンスは秀逸ですよね。太女生は「待つ」や「松」を乗り越えられずにいます。もっと自由な発想で俳句を詠みましょう(わたしみたいにね)。
文芸少女折下ふみかの華麗なる冒険 その58
日差しが照りつける八月上旬。部屋に謎の引力が生まれたように、私は外に出られなくなっていた。夏休みの課題にもなかなか手をつけられていない。それなのに、遊びの予定が入るとそちらを優先してしまう。やるべきことより、今やりたいことを選んでしまうのは、人間の性なのだろうか。
そんなことを考えていたとき、友達から一通のメッセージが届いた。
「今日、バーベキューしない?」
一瞬だけ課題のことが頭をよぎったが、すぐにその考えは消えた。せっかくの夏休みだ。夏は夏らしく遊び倒そう。そう決めた瞬間、終わっていない課題は頭の隅へ追いやられていった。
バーベキューができる河川敷まで、自転車を全力で漕いで向かう。刺すような日差しが肌に当たり、まるで我慢勝負を仕掛けられているようだった。それでも、自転車を走らせているときに通り過ぎる風は、暑さと湿気の中では意外と心地よい。脚が疲れて、だんだん動かしづらくなってきても、もう少しこのまま漕いでいたいと思った。
河川敷に着くと、器具を持ってきてくれた友達が先に準備を進めてくれていた。年に一度はバーベキューをしているらしく、火の起こし方などを教えてもらいながら、慣れない手つきで準備を進めた。
食材は、それぞれが食べたいものを事前に買っておき、当日になって見せ合うことにした。私は玉ねぎ、ピーマン、牛タン。友達はとうもろこし、ウインナー、かぼちゃを持ってきた。
慣れた手つきで火を起こす友達を横目に、私は野菜を切り続ける。しばらくすると炭の香りが漂い始め、食欲がどんどん湧いてきた。まずは焼けるのが早いウインナーとピーマンを網に並べる。定番の焼き肉のたれに加えて、変わり種として持ってきたワサビのチューブも試してみた。
これが意外にもウインナーによく合う。思った以上においしくて、箸が止まらなくなった。
ひとしきり食べ終えると、お腹はすっかりいっぱいになっていた。椅子に深く座り、少し傾き始めた太陽を眺めながら一息つく。普段ならなかなか話さないようなことまで、友達とゆっくり語り合った。
なんだか照れくさくなってきて、最後は川で少し水遊びをしてから片づけをした。
帰り道、今日一日のことを思い返しながら、自転車を漕ぐ。課題はまだ終わっていない。
明日は勉強ばかりすることになるだろうな。
そう思いながらも、不思議と後悔はなかった。夏は夏らしく遊び倒す。それも、きっと夏休みの過ごし方の一つなのだと思う。
文芸少女折下ふみかの華麗なる冒険 その57
◆ふみかのSF的日常◆ 後篇
【どういうこと?】
わたしは百年後の後輩にむけてキーボードを叩いた。
【生成AIが作った物語が文化祭をのみこんでしまったんです】
なんですって! これはもしかすると「宇宙密室殺人事件」をしのぐおおごとなのでは?
「最高じゃない!」
「最悪じゃない?」
「未来の文芸部員が困ってるんだよ。先輩としては放っておけない案件でしょ」
「百年後の後輩ね。実感わかんわ」
わたしは腕を組んだ。
「迷宮化した文化祭、AI小説生成機。つまり物語的因果律が動いている」
「強引じゃないか?」
「事件にはジャンルがあるってこと!」
わたしは机を叩いて、栞を論破しようとした。
「推理小説なら謎を解けば出口。SFなら装置を止めれば解決。映画ならクライマックスまで突っ走る!」
「あんたにはついていけん!」
わたしは即座に返信した。
【どうしたら助けられますか】
【AI小説生成機を破壊してください】
【それはむりですよ。時間軸の矛盾をはらみます】
【おや、あなたはSF小説ファンですか?】
【そうです。大好きです。】
【わたしもです】
【未来人がSF好きって、なんかおかしいですね】
「そんな世間話してる場合か!」
栞のツッコミにうろたえたのか、返事が途絶えた。画面からウインドウも消えた。その瞬間、校内放送を告げるチャイムが鳴った。『文芸部員の折下ふみか、大至急、職員室まで来なさい』顧問のアシダ先生だ。
「……締め切りの件じゃない」
「たぶんね」
わたしは栞を従えて、職員室へ向かった。顧問のアシダ先生は椅子をくるりとまわして、ふたりを見あげた。
「本間さんもいたのか」
「はい、たまたま」
「で、要件はなんでしょうか?」
「演劇部がさ、文化祭でコラボしたいって」
「コラボ? 原稿の催促じゃなく?」
「それはまだいいよ。まにあうから」
「まにあうんですか」と意表を突かれた栞。
「まにあうよ。折下さんの遅筆をみこしているからね。で、演劇部の件だけど、脚本をかいてほしいんだって。いま、ホンを書ける部員がいないらしくてさ。手伝ってあげなよ」
わたしは栞の肩をつかむと、ぐらんぐらんゆすった。栞にはその勢いの意味が読めなかった。なになになに。栞を解放し、アシダ先生に向き直ったわたしは、わかりましたと頭をさげると栞を引きずるように、いや本当に引きずってコンピュータ室にもどった。
「……来たね」
「なにが?」
「時空は閉じたのよ」
「説明!」
わたしは創作ノートひらくと、乱暴に書きなぐった。「文芸部員は昼寝でも夢を見る2137」。
「あんた、授業中のうたたねでも夢を見るの?」
「わたしたちのSF的体験を芝居にするのさ」
「なにも解決していないのに?」
「書けば解決する。それが物語の必然」
窓の外では夕焼けがあかあかとにじむようだった。わたしはにやりと笑った。そのとたん、コンピュータの画面にウインドウが開いた。2137年からのメッセージである。
【物語を救うにはあらたな物語が必要です】
【つまり?】
【現在のあなたが、未来の私たちを救い出す物語を書くんですよ。そうすれば……】
【そうすれば、未来の物語が現在のメタ物語でひっくり返される! それをこっちの時間の文化祭で芝居として上演すれば効果テキメン!】
【スバラシー!!!】
わたしは栞そっちのけでキーボードを叩き始めた……
部誌の原稿もまだかたちをなしていないのに、ふみかは文化祭用の脚本をかこうとしているのか。私、本間栞は核心をつくその疑問を飲み込むことにした。ふみかは、おそらく、やりとげるだろう。ふみかは誰よりも物語のちからを信じている。そして、追い込まれるほどに実力を発揮する。わたしはそのことをだれよりも、折下ふみか本人よりも知っているのだ。
太田女子高校文芸部。歴史はあるけど、部室はない。だが想像力の置き場所には困っていなかった。(おしまい)