カテゴリ:文芸部
文芸少女折下ふみかの華麗なる冒険 その57
◆ふみかのSF的日常◆ 後篇
【どういうこと?】
わたしは百年後の後輩にむけてキーボードを叩いた。
【生成AIが作った物語が文化祭をのみこんでしまったんです】
なんですって! これはもしかすると「宇宙密室殺人事件」をしのぐおおごとなのでは?
「最高じゃない!」
「最悪じゃない?」
「未来の文芸部員が困ってるんだよ。先輩としては放っておけない案件でしょ」
「百年後の後輩ね。実感わかんわ」
わたしは腕を組んだ。
「迷宮化した文化祭、AI小説生成機。つまり物語的因果律が動いている」
「強引じゃないか?」
「事件にはジャンルがあるってこと!」
わたしは机を叩いて、栞を論破しようとした。
「推理小説なら謎を解けば出口。SFなら装置を止めれば解決。映画ならクライマックスまで突っ走る!」
「あんたにはついていけん!」
わたしは即座に返信した。
【どうしたら助けられますか】
【AI小説生成機を破壊してください】
【それはむりですよ。時間軸の矛盾をはらみます】
【おや、あなたはSF小説ファンですか?】
【そうです。大好きです。】
【わたしもです】
【未来人がSF好きって、なんかおかしいですね】
「そんな世間話してる場合か!」
栞のツッコミにうろたえたのか、返事が途絶えた。画面からウインドウも消えた。その瞬間、校内放送を告げるチャイムが鳴った。『文芸部員の折下ふみか、大至急、職員室まで来なさい』顧問のアシダ先生だ。
「……締め切りの件じゃない」
「たぶんね」
わたしは栞を従えて、職員室へ向かった。顧問のアシダ先生は椅子をくるりとまわして、ふたりを見あげた。
「本間さんもいたのか」
「はい、たまたま」
「で、要件はなんでしょうか?」
「演劇部がさ、文化祭でコラボしたいって」
「コラボ? 原稿の催促じゃなく?」
「それはまだいいよ。まにあうから」
「まにあうんですか」と意表を突かれた栞。
「まにあうよ。折下さんの遅筆をみこしているからね。で、演劇部の件だけど、脚本をかいてほしいんだって。いま、ホンを書ける部員がいないらしくてさ。手伝ってあげなよ」
わたしは栞の肩をつかむと、ぐらんぐらんゆすった。栞にはその勢いの意味が読めなかった。なになになに。栞を解放し、アシダ先生に向き直ったわたしは、わかりましたと頭をさげると栞を引きずるように、いや本当に引きずってコンピュータ室にもどった。
「……来たね」
「なにが?」
「時空は閉じたのよ」
「説明!」
わたしは創作ノートひらくと、乱暴に書きなぐった。「文芸部員は昼寝でも夢を見る2137」。
「あんた、授業中のうたたねでも夢を見るの?」
「わたしたちのSF的体験を芝居にするのさ」
「なにも解決していないのに?」
「書けば解決する。それが物語の必然」
窓の外では夕焼けがあかあかとにじむようだった。わたしはにやりと笑った。そのとたん、コンピュータの画面にウインドウが開いた。2137年からのメッセージである。
【物語を救うにはあらたな物語が必要です】
【つまり?】
【現在のあなたが、未来の私たちを救い出す物語を書くんですよ。そうすれば……】
【そうすれば、未来の物語が現在のメタ物語でひっくり返される! それをこっちの時間の文化祭で芝居として上演すれば効果テキメン!】
【スバラシー!!!】
わたしは栞そっちのけでキーボードを叩き始めた……
部誌の原稿もまだかたちをなしていないのに、ふみかは文化祭用の脚本をかこうとしているのか。私、本間栞は核心をつくその疑問を飲み込むことにした。ふみかは、おそらく、やりとげるだろう。ふみかは誰よりも物語のちからを信じている。そして、追い込まれるほどに実力を発揮する。わたしはそのことをだれよりも、折下ふみか本人よりも知っているのだ。
太田女子高校文芸部。歴史はあるけど、部室はない。だが想像力の置き場所には困っていなかった。(おしまい)
文芸少女折下ふみかの華麗なる冒険 その56
◆ふみかのSF的日常◆ 前篇
わが文芸部の歴史は太田女子高校の歴史そのものである。学校創設とほぼときを同じくして産声をあげた(らしい)。それなのに、部室はない。活動費はある(少ないけど)。今年は新入部員が9人もきてくれた(そのなかのひとりは2年生だよ)。総勢14人の大所帯である。文芸部はコンピュータ室の一角を借りてほそぼそと活動している。活動日は火曜日と金曜日。きょうは水曜日だからだれもいないとおもったのに、本間栞がきていた。
「どしたの?」
「それはこっちのセリフでもある」
「ここさ、穴場だから」
「うふふ、おぬしもワルよのぉ」
夏である。おもては酷暑である。どこもかしこも暑い。おおくの生徒は自習室に足を運ぶが、そのせいで混雑している。コンピュータ室をつかっているのは理科研究部情報班と文芸部だけ。部活のふりして勉強をしようというはかりごとである。
「栞ちゃんはなにするの?」
「数学の課題。めっちゃむずかしい。ふみかは?」
「わたしは部誌の原稿書き」
「あれ? 締め切りはきのうじゃない?」
「しーっ!」
「関係者はだれもいないけど」
「催促されるまで提出しないのが文豪ってものよ」
栞は鼻でわらった。
「で、どんなやつ書いてんの?」
「宇宙密室殺人事件」
「宇宙がそもそも密室じゃない?」
「そこが盲点なのよ」
「盲点じゃなく、弱点でしょ」
さすがは学年トップクラスの秀才、本間栞である。いうことが正論である。栞の指摘は聞かなかったことにして、わたしは創作ノートを開いた。そのとき、文芸部専用の古臭いプリンターが突然動き出した。ガガガガ、ウィーン。
「きゃっ」
わたしは栞と顔を見合わせる。そのあとの反応ははやかった。席をたつと、プリンターに駆け寄る。A4のコピー用紙が一枚、ぺろんと一枚出てきた。まるで化物のベロのように。そこには太字でこう書かれていた。〈タスケテ 2137ネンヨリ〉。
「なにこれ」
「……ドッキリ?」
コンピュータ室のおくのほうでは情報班のものたちがなにかやっている。このプリンターにアクセスできるのは文芸部だけ、のはず。
「な、わけないか」
わたしはそのあやしげな紙を慎重につまみ上げ、探偵のように目を細めた。ジャケットのポケットをさぐる。
「なに探してんの?」
「おおきな虫眼鏡」
「そんなの持ち歩いてたっけ?」
「いや」
なんだそれ。栞はわたしから用紙をうばいとり観察する。
「インクは新しい。文字バケなし。紙送りも正常。プリンターにしこまれたなんの変哲もないA4のコピー用紙ね。だけど、発信先は2137年。つまりこのプリンターは百年以上さきの未来とつながっている」
「ワームホール的な?」
ごごごっとうなり音がきこえ、もう一枚の用紙がアカンベェよろしく吐き出される。〈ぱそこん二 ムカヘ〉。
わたしたちは文芸部のパソコンにもどった。わたしが使っていたパソコンの画面に見慣れないウィンドウが開いている。【時空同期率 3%】。
「うわ」
「うわ、っていったね、今」
わたしは震える指でキーボードを叩く。
【あなたは誰ですか?】
数秒後、画面に返事が出た。
【2137年の太女の文芸部員です。花子といいます。コンピュータ室にいます。】
「未来でも部室なし!?」
「そこ継承されるんだ……」
さらに文面が続く。
【たすけてください!】
【どうしたの?】
【文化祭展示用AI小説生成機が暴走し、文化祭が迷宮化しました】
わたしの目がキラリと輝いた。とおもう。実際にはじぶんでみたわけじゃないけどね。(つづく)
文芸少女折下ふみかの華麗なる冒険 その55
7月。上半期も終わり、いよいよ下半期へ差しかかってきた夏の日。
私、折下ふみかは、炎天下一人自転車を漕いで学校へ向かっていた。ちなみに夏休みは始まっている。なのに、何故登校しているかというと。
夏季課外があるからである!!
もう慣れたが、1年生のときは「え!? そんなものがあるの!?」と驚愕していた記憶がある。今は慣れた。本当に。ただ、結構億劫であることには変わりない。前期だけじゃなくて後期もあるし。何がたのしくてエアコンの効いた愛しの我が家を離れて、日差しの厳しい外に出なければいけないのか。最近は外の気温も日に日に上がっていて、もはや熱中症は避けて通れないほどになっている。日傘と手持ち扇風機は手放せない。紫外線は肌の天敵だから日焼け止めとアームカバーもマスト。そんなこんなで、いろいろ準備して汗を滴らせながら学校に行くのだが、教室に入ると中はがらんどう。人が全然いない。一限目の開始時刻が迫っているというのにだ。気持ちは分かる。うんうん分かるよ。行きたくないよね、そりゃあね。強制でもないもんね。確か。じゃあ偉くない? 私偉くないか? うん。偉い。偉すぎる。ちゃんと後期も出席するつもりでいるし。偉いな、私。
などと自分を鼓舞していると、教室がやけに暑いことに気付く。そうだ。まだ扇風機もエアコンもつけていないじゃないか。やーれやれ、しょうがない。私がつけるとしますか。
幸いにも私の机の位置は教卓に近く、電源の集合地にも近い。私は手持ち扇風機を片手に、扇風機とエアコンの電源をオンにした。はずだった。
「はい?」
扇風機の電源はついたのにエアコンの電源がつかない。何度押しても「中央管理中」となっている。は? もう始まるんですけど? 授業。おかしい。いつもなら8時を過ぎたらつくはずなのに。このままでは蒸し蒸しの空気が充満した教室で授業を受けなければいけなくなる。それだけは嫌だ。ただでさえ外が暑いのに教室も暑いとか無理過ぎる。謎にエアコンがつかないのは私のクラスだけなのかと思い、隣のクラスの子に聞いてみたが、どうやら隣のクラスでもエアコンがつかず困っているようだった。自分のクラスだけエアコンがつかないなどということではなかったのはいいが、問題が解決したわけではない。授業開始のチャイムが鳴るのも、もうすぐだ。あ、終わった。今日はもうダメだ。セルフサウナ状態で授業だ。最悪だ。こうなっては腹を括るしかないか…と思い、私は自分の席で碇ゲンドウポーズでチャイムが鳴るのを待っていた。
課外の1時間目は8:40にはじまる。時計の長針は8:35を指そうとしていた。教室の座席もクラスメイトでほぼ埋まった。私が密かにあきらめの境地に辿りつこうと覚悟を決めているとき、教室に滑り込んできた同じクラスの子が最後の悪あがきと言わんばかり(私にはそう思えた!)にエアコンの操作パネルに近づき、電源スイッチに手を伸ばした。その子に対し、諦めるんだ。今日のエアコンはこちらの言うことを聞いてくれないんだから! と声には出さず思ったのもつかの間。
ピ! ピィ……(起動音)
先刻の抵抗はどこへやら、エアコンは素直に稼働し始めたのだ。瞬時にクラス中に歓喜の声が溢れる。それをよそ目に私は、
「えぇ…」
とため息が出たのであった。
文芸少女折下ふみかの華麗なる冒険 その54
◆「せせらぎ」191号◆
部誌「せせらぎ」191号が完成しました。
ひとまずデジタル版をアップします。
アナログ版は7/21には完成する予定です。
今回も力作ぞろいです。
たくさんのひとに読んでもらえるとうれしいです。
読後の感想はお近くの文芸部員にお寄せください。
文芸少女折下ふみかの華麗なる冒険 その53
◆一つ目の終幕◆
みなさん、こんにちは、こんばんは、それとも、おはようございます? 折下ふみかでございます。今回の「折下ふみかの華麗なる冒険」はちょっとメタい話になります。…
今回の折下文香の〝中の人〟である私が文章を書く回は、今回が最後となります。思えば、ふみかちゃんの冒険の第一回は2024年07月09日、松籟祭(文化祭)についてのお話でした。書いた人は、当時の3年生の先輩だったかな。ふみかちゃん爆誕も、6月のことでしたね。ぬるっと名前が決まったので、実は私も(たぶん当時の文芸部の誰も、もしかしたら顧問の先生も)正確な誕生日を知らないんですよね…。それからおよそ2年間、尊敬してやまない先輩が卒業したり、かわいいかわいい後輩が入ってきてにぎやかになったり、いろいろありながらもみんなで「折下ふみかの華麗なる冒険」を続けてきました。きっと、これからも後輩のみんながいろんな冒険を記していってくれることでしょう。さみしいけど、しょうがないというか。
それはそれとして、私には切実な望みがあります。ふみかちゃんの創作をこれからも続けたい! そして発表する場がほしい!! 前回、「せせらぎ」190号で私は「『折下ふみか』特集」を開催し、みんなでふみかちゃんの物語を書きました。しかし、まだまだネタは尽きない…。けど私には、もう発表する場はない…。
と、いうわけで! 卒業してもふみかちゃんの二次創作(表現あってるのか?)を書き続けられる、発表できるサイトとか作れませんかね!? 「折下文香の拾遺集」とかさぁ…いいと思うんだけど…。卒業しちゃったら「折下ふみか」ちゃんの名前を使うのっていろいろダメだと思うんだよな…。でもふみかちゃんのつもりで書いた話を、ふみかちゃん以外の名前に変えて発表するのも納得できなくて…。どうしようかなぁ。
そういえば、ぜんぜん話が変わっちゃうんですが、一つ心残りがあったんですよ。どうせだし、ここで言っちゃおうかな。2025年06月12日投稿の「文芸少女折下ふみかの華麗なる冒険 その20」で、せせらぎ188号の合評会のレポートが載っているんですが、その中の私の作品「記憶のカケラ」で、Gちゃんが「ひとはだれでも死ぬけれど、その宿命を悲観するのではなく、死ぬまでを前向きに生きることで「私」は娘の記憶の中に断片的でもかまわないから生き続けようとつとめる。」って言ってるけど、実はこれ、間違ってるんです。「私」は祖母(「私」にとっての母)を知らない自分の娘に、ブランデーケーキの話をして、その後ねだられるままに自分の母親の話を聞かせることで、会ったことがなくとも、自分の祖母はこういう人だったんだな、って知っておいてもらいたかったし、憶えておいてもらいたかったんです。たぶんこれは、私が、会ったことのないひいおじいちゃんやひいおばあちゃんの話を聞きたがることがある、というところから来ているんでしょう。
この間違いに気づいたとき、直してもらおうかと思ったんですが、投稿されてからやや経っていたし、何と言って直してもらえばいいかもわからなくて、結局言えなかったんですよね。この話がなんだかわからないって人は、「せせらぎ 188号」または「文芸少女折下ふみかの華麗なる冒険 その14」、「文芸少女折下ふみかの華麗なる冒険 その20」を読んでね。(宣伝)
最後の最後にこんなんでいいのかってちょっと思いましたが、まぁいいでしょう! これからも、「文芸少女折下ふみかの華麗なる冒険」をよろしくお願いします。そして、後輩ちゃんたち!(まだ見ぬ後輩ちゃんも含めて)ずっとずっと、ふみかちゃんと一緒に、文芸部を盛り上げていってね! 今回の「せせらぎ」に私が出す予定の、ふみかちゃんの死ネタみたいな最期が来ないことを祈ってるよ!!(←何書いてんねん)
それではみなさん、そろそろお別れの時間でしょう。(書きたいことは書きました!!)折下ふみかよ、永遠なれ! …以上、今回の〝中の人〟ラギでした。