文芸少女折下ふみかの華麗なる冒険 その33
今、ネット上ではボーカロイドが歌唱する「ボカロ曲」というものが数多く投稿され、人気を集めている。この私もそのボカロに魅了されている一人である。人間離れした高音や早口を真似して歌えるかチャレンジしたり、落ち着いた曲を聴いてこのボーカロイドはぴったりの声をしているな、と考えたり……昔からボカロが好きだったからか、検索履歴をもとに出てくるのはボカロ曲ばかりで、あまり人が歌う曲に触れる機会がなかった(流行しているアニソンであったりは聴いてみているけれど)。とにかく何が言いたいかというと、私は投稿されたのが昔の大人っぽい曲をあまり知らないのだ。興味はあるけれど。
そんな中、この前珍しくYouTubeのおすすめに10年も前の曲が流れてきた。椎名林檎さんの「長く短い祭」である。好奇心で再生ボタンを押すと、私は一気にその曲に引き込まれた。リズム感、声・メロディの色っぽさ、歌詞の洒落た言い回し、MVのストーリー性……どれも私の好みであった。感銘を受けた私は興奮した様子で何度もリピートをしていた。
「ただいまー」
お母さんが帰ってきた。夕飯の準備をしに台所に向かっていく。数分間お母さんは何も言わずただ料理をしていたが、唐突に「椎名林檎さんの?」と訊いてきたので、私はこの曲に夢中になった経緯を鼻息を荒くしながら話した。「まさか10年前の曲にこんなに夢中になるなんて……私はボカロ曲とかばっかり聴いてたせいで、そういうのは合わないって思ってたよ」そう言うとお母さんはふふっと笑い「歴史は繰り返すからねぇ」と言った。ほう、と私が相槌を打つと、お母さんは話を続けた。「若い子でも結構昔の曲を好きになる子は多いよ。昔だろうと何だろうと、素敵な曲は素敵な曲だからね。」
それを聞いたとき、確かになぁと腑に落ちた。例え昔の曲だろうと、昔有名になったのだから、それ相応の魅力があるのだ。 私の中で、昔の曲は合わないという考えがあったのが不思議だ。いや、以前から気になってはいたのだ。深く足を踏み入れていなかっただけで。ああいった曲に憧れはあった。おそらく、流行に合わせようという考えが昔の曲に触れる邪魔をしていたのかもしれない。誰がどの曲を歌おうと構わないのに……。今後は自分の気になった曲は迷わず聴いてみようと思えた。
これは私の中で大きな転機だ。読み手の方々は大げさだなぁと思っているかもしれないが、自分の中では大きな、素晴らしい変化なのだ。きっと誰にでもそういった瞬間がある。そうして得た晴れやかな気持ちを、私は大切にしているのだ。今この瞬間私だけが感じている、そう考えてみれば素晴らしいとは思えないだろうか。
話が少しずれてしまったので、そろそろ締めようと思う。素敵な曲に出会えたことで、私は素敵な考えをするに至れた。そこで皆さんにもこの曲を是非聴いてみてほしい。私と同じくらいの年の方にも、そうでない方にも。既に「長く短い祭」を知っている方も、当時の思い出に浸るつもりでもう一度。私の中で変化があったように、皆さんに新たな発見や変化が起こると嬉しい。