文芸少女折下ふみかの華麗なる冒険 その22
梅雨入りをして、初めての豪雨。今家に帰ろうとすると、きっと後悔の残る結果になってしまうので、近くにある市立の図書館へ雨宿りをすることにした。
図書館の中は冷房が効いていて、雨音だけが響いている。重たい荷物を下ろし、数学の参考書を開く。少しサボっていたこともあって、授業になかなかついていくことが難しくなっていたので、この状況はちょうどよかった。お気に入りのシャーペンを筆箱から取り出し、取り掛かる。古い本の独特の香りが不思議と集中力を高めてくれて、時間を忘れさせる。
雨音が少し弱まり、優しい西日が差し込んでいることに気づいたころには、とっくに一時間が過ぎていた。そんなに長居をする気はなかったのに、同じ場所に居座り続けてしまったことに少し落胆しながらも、図書館を後にして最寄り駅まで歩き始めた。長い田舎道は雨で濡れたアスファルトの香りが立ち込めている。さっきよりも明るさを増した西日が道路に強く反射する。雨が降っていたとは思えないほど空気は暑くて、夏であることを感じさせる。
図書館の最寄り駅から家の最寄り駅まで揺られ、約三十分。ようやく家に着いた。最近日が伸びてきたこともあってまだ少し空はオレンジ色に染まっていた。コンクリート壁にくっついたナメクジが地面に落ちたところで鍵を開けて家に入った。
家の中は熱気がこもっていて、リュックを下ろすことを忘れて窓を思いきり開けた。さっきまでいた外の空気が予想以上に気持ちよく感じる。部屋の中が涼しくなった後、冷蔵庫にあったオレンジジュースをコップに注ぎ飲み干す。オレンジの清涼感が嗅覚や味覚を刺激する。ベッドに横になり枕元に置いてあった小説に手を伸ばし、それを読み始めた。やらなくてはいけないものはきっとある。だけどこの微妙な涼しさが私を駄目にしていく。
ややあって、気が付いたころには小説が閉じられていて外は真っ暗になっていた。「お腹がすいた。」そう思い、自室からキッチンへ一直線に向かっていった。