文芸少女折下ふみかの華麗なる冒険 その10

 不覚にも風邪を引いた。コロナウイルスである。周りの人々がインフルエンザに倒れ伏していく中、何故私はコロナウイルスなんかに罹っているのであろうか。
 まあ、学校にも行けないしで時間も余っていることだから、本でも読もうかと、ベッドの中から手を伸ばして積読から一冊の本を取り出して開く。
 思えば最近、忙し過ぎたのだ。だから本を読む時間を取れなかったし、体調も崩す。感染経路にいまいち心当たりがないけれど罹ってしまったものはしょうがない。
 家族全員が出払って静まり返っている家の中、私の部屋の中だけにペラリペラリとページをめくる音が響く。どれだけ本を読み続けても怒られない、至福の時間。
 しかし、そんな時間に影が差す。寝っ転がって本を読む弊害が現れ始めた。まず、横を向いて寝っ転がり本を読むと、上側の腕が痺れる。疲れすぎてプルプル震えてきた。
 次にあお向けになる。今度は両腕が痺れる。肩も痛い。サイアク。
 うつ伏せになって背筋を使って上半身を持ち上げながら本を読んでみる。両腕も疲れるし背中も疲れる。これもだめ。
 もう座って読むかと、身体を起こせば急に頭がクラクラしてくる。そうだ、私は病人だった。
 諦めて横向きに寝転がって本を開く。熱のせいかなんだか文字を読んでも頭に入ってこない。何が書いてあるのかはわかるのに、理解ができない。文字の奥にある景色や、顔や、声が、まったく感じられない。
 なんたる不覚。記憶にある限り文字を読まなかった日はないと断言できる、この私が!
 本が読めないとわかると、なんだか悲しくなってきた。しくしくと、涙を流していると、だんだん眠くなってきた。

 ハッ、と意識が覚醒した。気が付かないうちに眠っていたらしい。眠っている間に汗をたくさんかいたようで、身体が随分とスッキリした。熱も下がったようだ。頭にかかっていた霧が晴れていったような気分。
 寝起きで震える手を枕元の本に伸ばす。本を開いた。文章に目を向ける。
 読める。
「はは、」
 やっぱり、物語が読めるって素晴らしい。

 みんなは病気に気をつけてね。