文芸少女折下ふみかの華麗なる冒険 その56

◆ふみかのSF的日常◆ 前篇

わが文芸部の歴史は太田女子高校の歴史そのものである。学校創設とほぼときを同じくして産声をあげた(らしい)。それなのに、部室はない。活動費はある(少ないけど)。今年は新入部員が9人もきてくれた(そのなかのひとりは2年生だよ)。総勢14人の大所帯である。文芸部はコンピュータ室の一角を借りてほそぼそと活動している。活動日は火曜日と金曜日。きょうは水曜日だからだれもいないとおもったのに、本間栞がきていた。
「どしたの?」
「それはこっちのセリフでもある」
「ここさ、穴場だから」
「うふふ、おぬしもワルよのぉ」
夏である。おもては酷暑である。どこもかしこも暑い。おおくの生徒は自習室に足を運ぶが、そのせいで混雑している。コンピュータ室をつかっているのは理科研究部情報班と文芸部だけ。部活のふりして勉強をしようというはかりごとである。
「栞ちゃんはなにするの?」
「数学の課題。めっちゃむずかしい。ふみかは?」
「わたしは部誌の原稿書き」
「あれ? 締め切りはきのうじゃない?」
「しーっ!」
「関係者はだれもいないけど」
「催促されるまで提出しないのが文豪ってものよ」
 栞は鼻でわらった。
「で、どんなやつ書いてんの?」
「宇宙密室殺人事件」
「宇宙がそもそも密室じゃない?」
「そこが盲点なのよ」
「盲点じゃなく、弱点でしょ」
さすがは学年トップクラスの秀才、本間栞である。いうことが正論である。栞の指摘は聞かなかったことにして、わたしは創作ノートを開いた。そのとき、文芸部専用の古臭いプリンターが突然動き出した。ガガガガ、ウィーン。
「きゃっ」
わたしは栞と顔を見合わせる。そのあとの反応ははやかった。席をたつと、プリンターに駆け寄る。A4のコピー用紙が一枚、ぺろんと一枚出てきた。まるで化物のベロのように。そこには太字でこう書かれていた。〈タスケテ 2137ネンヨリ〉。
「なにこれ」
「……ドッキリ?」
コンピュータ室のおくのほうでは情報班のものたちがなにかやっている。このプリンターにアクセスできるのは文芸部だけ、のはず。
「な、わけないか」
わたしはそのあやしげな紙を慎重につまみ上げ、探偵のように目を細めた。ジャケットのポケットをさぐる。
「なに探してんの?」
「おおきな虫眼鏡」
「そんなの持ち歩いてたっけ?」
「いや」
なんだそれ。栞はわたしから用紙をうばいとり観察する。
「インクは新しい。文字バケなし。紙送りも正常。プリンターにしこまれたなんの変哲もないA4のコピー用紙ね。だけど、発信先は2137年。つまりこのプリンターは百年以上さきの未来とつながっている」
「ワームホール的な?」
ごごごっとうなり音がきこえ、もう一枚の用紙がアカンベェよろしく吐き出される。〈ぱそこん二 ムカヘ〉。
わたしたちは文芸部のパソコンにもどった。わたしが使っていたパソコンの画面に見慣れないウィンドウが開いている。【時空同期率 3%】。
「うわ」
「うわ、っていったね、今」
わたしは震える指でキーボードを叩く。
【あなたは誰ですか?】
数秒後、画面に返事が出た。
【2137年の太女の文芸部員です。花子といいます。コンピュータ室にいます。】
「未来でも部室なし!?」
「そこ継承されるんだ……」
さらに文面が続く。
【たすけてください!】
【どうしたの?】
【文化祭展示用AI小説生成機が暴走し、文化祭が迷宮化しました】
わたしの目がキラリと輝いた。とおもう。実際にはじぶんでみたわけじゃないけどね。(つづく)